今季のポストシーズン(PS)進出チームで一番のサプライズといえば、間違いなくマーリンズだ。

17年オフにジャンカルロ・スタントン(30=ヤンキース)、クリスチャン・イエリチ(28=ブルワーズ)、マルセル・オズナ(29=ブレーブス)のコアな外野手トリオをトレードしたのを皮切りに、主力のほとんどを放出する大ファイアセールを行い、再建を始めてからわずか2年でのPS進出だ。

しかも今季は、まだ再建途上だと誰もが思っていた。60試合の短縮シーズン開幕時はチーム内に新型コロナウイルス感染クラスターが発生し、長期間試合ができないという逆境もあった。

ところが有望な若手が予想以上に成長してきた。攻撃力は他球団と比べてそこまで高いわけではないが、チーム盗塁数はリーグ2位、そのうちホームスチールに3度も成功している。メジャーの他球団29チームの本盗合計がわずか1であることを考えれば、尋常じゃない記録だ。

この数字で思い起こされるのは、15年から17年までマーリンズに所属したイチロー氏(46=マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)の存在だ。

最後のシーズンになった17年の春季キャンプ中、イチロー氏による走塁講習会が行われた。メジャー通算509盗塁をマークし屈指の走塁技術を誇った同氏のノウハウを、若い選手に伝授してほしいという、ドン・マッティングリー監督(59)ら首脳陣の強い要望があったためだ。講習会では専門スタッフによる走塁見本集のビデオが用意され、その中にはイチロー氏の走塁場面が数多く使われ、同氏自身も講義を行った。

マッティングリー監督は、イチロー氏の走塁技術をいつも称賛し、チームの走塁技術と意識を高めたいと何度も口にしていたものだった。今のマーリンズには、イチロー氏のレガシーが生きているのではないだろうか。

現在のマーリンズには日本人選手はいないが、元日本ハム監督のトレイ・ヒルマン氏(57)が昨季から三塁ベースコーチを務めている。日本ハム時代は球団44年ぶりの日本一を達成し、18年まで2年間監督を務めた韓国プロ野球のSKワイバーンズでも球団を8年ぶりの優勝に導くなど、劇的に頂点に立つ経験を何度かしている。

創設後の1993年から2度のポストシーズンに進出しているマーリンズは、2度ともワールドシリーズを制覇しているが、今回も劇的な快進撃となるのか、注目したい。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

レギュラーシーズンが終わり、ベンチでスタントン(右)とハグするマーリンズ・イチロー(2017年10月1日撮影)
レギュラーシーズンが終わり、ベンチでスタントン(右)とハグするマーリンズ・イチロー(2017年10月1日撮影)