エンゼルスの元職員が球団とMLBを提訴した裁判で、同職員が過去に粘着物質を渡していた投手の名前が明らかになった。

裁判記録には、アストロズのジャスティン・バーランダー(37)とゲリット・コール(30=現ヤンキース)、ナショナルズのマックス・シャーザー(36)、インディアンスのコリー・クルバー(34=現ヤンキース)らエース格や元エースの名が多数挙げられていたという。

しかし投手の粘着物使用は、ハイテク機器によるサイン盗みのような大スキャンダルにはならない見込みで、MLBも調査などは行わない模様だ。

ジ・アスレチックスによると、MLB全投手のうち4分の3以上が何らかの粘着物質を使用しているという。それが事実だとすれば、違反者に罰則を科すと球界のほとんどの投手が罰せられることになりかねず、収拾がつかなくなる。試合中に投手が使っていることが発覚した場合は処罰されるが、そうでなければ使用は暗黙の了解のようになっている。

粘着物質といえば代表的なものは松やにだが、MLBの球場で取材をしていると、打者が松やにを使っているのは日常的に目にする。打者の松やには、常軌を逸するほどの量を使っていればとがめられるらしいが、基本的には不正にはならない。そのため球場には日常的に松やにがあり、投手にも簡単に手に入る物質だ。

最近では、いくつかの物を調合して独自の粘着物質を作る投手も多いという。ある炭酸飲料を沸騰させて水分を飛ばすと粘り気が出るため、それとローションやクリームなどを調合するという手法が記事に出ていた。

投手の粘着物質使用がそれほど大きな問題にならないもう1つの理由は、メジャーの公式球がとにかく滑りやすいという認識が球界全体にあるためだ。そのため、公式球を製造しているローリングス社とMLBは、滑りにくい球への変更も検討している最中だという。

前出のジ・アスレチックが13日付の記事で、MLBはミズノ製の日本の公式球も参考にし、滑らないボールを春季キャンプなどで試したことがあると書いていた。だがMLBの公式球に比べて飛ばないため、打者には評判が悪かった。マイナーや提携している独立アトランティックリーグでもボール改良の実験を続けているが、MLBの場合は使用球の変更にも選手の意見が重視され、簡単にはいかないそうだ。

飛ばないボールは打者が嫌がり、投手と打者両方が納得するボールを作るには年月がかかるという。いっそのこと投手の松やに使用を合法にしてはどうかという意見もある。粘着物質調合を競い合うかのような最近のトレンドがエスカレートしていけば、今後さらに議論になりそうだ。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

アストロズのジャスティン・バーランダー(2019年10月18日撮影)
アストロズのジャスティン・バーランダー(2019年10月18日撮影)