イチローの同僚で、今季は不動の4番に座るマーリンズのマルセル・オズナ外野手が、またも笑わせてくれました。

 7月2日(日本時間3日)の「ブルワーズ-マーリンズ戦」の8回表、打席に入ろうとした際、バットの「滑り止め用松ヤニ」の付着部分が多過ぎると、球審から指摘され、交換するよう注意されました。その際、予備を置いていなかったのか、同僚スタントンのバットを拝借。結果は、左翼2階席の最上段に弾丸ライナーで突き刺さる本塁打となりました。

 このオズナ、5月30日のフィリーズ戦では、イチローにおねだりしたバットで本塁打を含む5打数3安打1打点。翌日も2ランを含む3安打3打点と活躍し、周囲をアッと言わせました。あまりの好結果に、オズナはその試合限りでイチローのバットを封印。ピカピカに磨き、イチローにサインをもらい、今では「魔法のバット」として自宅に飾ってあるそうです。

 イチローとスタントンのバットで本塁打を放ったオズナは、2種類のバットの感触について「どちらも好きなんだ。どちらもバランスがいいから」と、真顔で話していました。

 もちろん、安打を量産してきたイチローと、特大アーチが魅力のスタントンのバットが、同じタイプのはずもありません。


 イチロー 「ミズノ」社製・長さ85センチ、重さ910グラム・材質ホワイトアッシュ

 スタントン 「マルーチ」社製・長さ86・4センチ・重さ879グラム・材質メープル


 これらの数字だけでなく、グリップの太さ、全体の形状、バランスも違います。それでも、オズナは「どちらも好き」と言うのですから、その違いはほとんど気にならなかったのでしょう。

 常日頃から、バットの保管に神経を配り、ミリ単位の違いまで追求してきたイチローにすれば、オズナの快打は信じられない出来事だったようです。

 「僕には考えられない、あんなことは。人のバットも握りたくないからね。僕も、そんな無神経になりたい。でも、いい結果が出てくれて良かったです」。

 イチローとスタントンのバットのおかげかどうかはともかく、打撃3部門すべてでハイレベルな成績を残しているオズナは、地元マイアミで行われるオールスター(7月11日)に、見事、ファン投票(3位)で選出されました。

 「弘法筆を選ばず」と言いますが、オズナの場合、「バットを選ばす」というところでしょうか。

 スタメンに名前を連ねるオールスターでも、他のスター選手におねだりして、借り物バットで大活躍するかもしれません。

【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「メジャー徒然日記」)