サイ・ヤング賞の有力候補に挙げられるカブスのダルビッシュ有投手が、今季公式戦最終登板で最多勝を確定させる8勝目を挙げました。防御率、奪三振ともリーグ上位にランクされるなど、コロナ禍で変則日程となった中、文句なしの成績を残しました。米メディアでは、それら主要部門の成績だけでなく、12試合中10試合でクオリティースタート(6回以上、自責3以内=以下QS)をクリアしたことを高く評価する声も聞かれています。

近年は日本でも知られるようになったかもしれませんが、メジャーでは先発投手の評価基準のひとつとして、QSの考え方が定着しています。1985年頃、フィラデルフィアのスポーツライターが考察したと言われており、その後、一定の評価軸として球界に広まりました。メジャーの監督の多くは、たとえ試合に勝てなかったとしても、先発投手が中盤まで踏ん張り、QSをクリアすれば、ほぼ間違いなく「チームに勝つチャンスを与えてくれた」とコメントします。序盤で試合を壊すことなく、反撃可能な範囲内の失点であれば、先発としての役割を果たしたと評価するからです。

その一方で、やや否定的な見解もあります。「6回、自責3」であれば、防御率は4・50。では、QSに該当しない「5回、自責2」(防御率3・60)、「9回、自責4」(同4・00)と比較した場合、どちらがチームにとって有益なのか-。

もちろん、正解はありません。

ただ、かつての先発完投から分業制が進み、勝敗がつきにくくなった先発投手の評価方法も少しずつ変わってきました。いかに剛腕でも、毎試合のように快投を演じられるほど、メジャーのレベルは甘くありません。基本的に中4日で先発し、100球前後の球数で6回以上を投げ切ることは、想像以上に簡単ではありません。最近は配球パターン、投球のクセなど細かいデータ分析が進み、対戦が重なれば重なるほど、相手打者も徹底的に研究してきます。となれば、頻度が低い快投よりも、安定感があり、常に「チームに勝つチャンス」を与えてくれる投手がより信頼されるようになるわけです。その安定感を示す1つの基準が、QSというわけです。

特に、60試合の短期戦となった今季の場合、同地区内の対戦に限られたこともあり、単純に162試合に換算して評価するのも、少し無理があるような気もします。その意味でも、より多くチームに勝機をもたらしたダルビッシュの「QS10試合」は、貢献度を計る上で説得力があるのではないでしょうか。【四竈衛】

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)