まさか自分が生きている時代に、野球の母国で日本人の本塁打王が誕生するとは夢にも思いませんでした。大リーグは1日(日本時間2日)、2日にサスペンデッドから再開されるメッツ-マーリンズの1試合を除き、レギュラーシーズンが終了。打撃タイトルでは、エンゼルス大谷翔平投手(29)が44本塁打で逃げ切り、初のホームラン王に輝きました。

ア・リーグ エンゼルス対マリナーズ 8回裏エンゼルス1死、右越えに40号ソロ本塁打を放つ大谷翔平=2023年8月3日(現地時間)
ア・リーグ エンゼルス対マリナーズ 8回裏エンゼルス1死、右越えに40号ソロ本塁打を放つ大谷翔平=2023年8月3日(現地時間)

私はこれまで、メジャーを50年間見続けてきました。日米の野球で決定的な違いは、パワーの差にありました。日米野球では多くのメジャーチームが来日しましたが、パワーに関していえば、日本人打者は全く太刀打ち出来ませんでした。

1974年には、メッツの単独チームとは別に、ハンク・アーロン(ブレーブス)が来日。後楽園球場で巨人王貞治と「日米の本塁打王」による夢のホームラン競争が行われました。同年にベーブ・ルース超えの通算715号本塁打を放ったアーロンが、長旅の疲れも見せず10-9で勝利。のちにアーロンの通算本塁打記録を更新し、「世界の王」となる希代のスラッガーも、本場のパワーの前に屈しました。

その後、日本人投手の大リーガーが活躍する時代となり、21世紀に入ると2001年のイチロー(マリナーズ)と新庄剛志(メッツ)の両外野手を皮切りに、野手のメジャー進出も始まりました。

03年にはセ・リーグ本塁打王に3度輝き、前年に50発をマークした巨人の4番松井秀喜外野手が名門ヤンキース入り。日本球界最高のパワーヒッターが本塁打を何本打つか話題になりましたが、タイトル争いに加わることはなく、自己最多は04年の31本止まり。メジャー10年で通算175本塁打に終わりました。

松井の後を追って、05年には元パ・リーグ本塁打王の近鉄中村紀洋内野手がドジャース入り。最近では20年に元セ・リーグ本塁打王のDeNA筒香嘉智外野手がレイズ入団。しかし、中村は17試合でノーアーチ、筒香もメジャー3年で計18本塁打と期待に応えることはできませんでした。

そんな中、エンゼルス大谷は18年の入団から、打席に立てば4試合に1発ペースでホームランを量産。21年は本塁打王こそ逃しましたが、ア・リーグ3位の46本をマーク。今季はついに、ケガで9月3日以降は出場できなくても、初のタイトルを獲得しました。

エンゼルス対ダイヤモンドバックス 6回裏エンゼルス無死、右越え本塁打を放ち、ブルペンに向かって合図を送る大谷(撮影・前田充)
エンゼルス対ダイヤモンドバックス 6回裏エンゼルス無死、右越え本塁打を放ち、ブルペンに向かって合図を送る大谷(撮影・前田充)

また、本塁打の「質」も見事でした。メジャーを代表するパワーヒッターのアーロン・ジャッジやジアンカルロ・スタントン(ともにヤンキース)にも引けを取らないほどの、打球スピードや飛距離をマーク。6月30日のダイヤモンドバックス戦では、今季メジャー最長飛距離493フィート(約150メートル)の超特大弾を打ち上げました。それはまさに、メジャー最高のパワーヒッターの証しとも言える大アーチでした。

思えば、今年3月のWBCでも、侍ジャパンは決勝で米国を撃破し、3大会ぶりに覇権を奪回。大会通算のチーム本塁打は米国の12本に対し、日本は9本。長打率も米国の5割3分に対し、日本は5割2厘と全く引けを取りませんでした。連覇を狙った「ホスト国」米国に勝るとも劣らぬパワーを発揮し、最多3度目の世界一に輝きました。

大谷は一流スラッガーの指標ともなるOPS(出塁率+長打率)でも、両リーグトップの1・066。メジャー日本人記録で自身が21年にマークした・965を1以上も上回りました。今年は大谷以外にも、カブス鈴木誠也外野手(29)が日本人3人目のシーズン20本塁打に到達。特に、シーズン終盤の長打力は目を見張るものがありました。

本場アメリカにパワーで負けない時代が到来したことには、あらためて感無量です。和製ホームラン王誕生が、新たな時代の始まりを予感させてくれた2023年でした。【大リーグ研究家・福島良一】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「福島良一の大リーグIt's showtime!」)

エンゼルス対レッドソックス 3回裏エンゼルス1死、12号ソロ本塁打を放った大谷はかぶとをかぶりチームメートとタッチ(中央)(撮影・菅敏)
エンゼルス対レッドソックス 3回裏エンゼルス1死、12号ソロ本塁打を放った大谷はかぶとをかぶりチームメートとタッチ(中央)(撮影・菅敏)