【オークランド(米カリフォルニア州)29日(日本時間30日)=本間翼、斎藤庸裕】価値ある「1」を記した。エンゼルス大谷翔平投手(23)が、敵地で行われたアスレチックスとの開幕戦に「8番指名打者(DH)」でメジャーデビューした。2回の初打席で初球をとらえ、右前に初安打を放った。伝説の名選手ベーブ・ルース以来となる本格的な「二刀流」挑戦の第1歩を打者として迎えた。試合は延長11回にサヨナラ負けを喫したが、記念すべき1試合目は5打数1安打、1三振だった。

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 初めて味わったひとときを、大谷は素直に振り返った。

 「おそらくこの先、忘れない打席になるのかなと。すごい特別な感情はあるんじゃないかなと思います」

 その瞬間は2回2死一塁にやってきた。7番バルブエナが三邪飛に倒れる。敵地ファンは、観客席に乗り出して好捕した三塁手チャプマンに惜しみない拍手を送る。同時に打席に向かう8番大谷には、お決まりのブーイングが注がれた。

 これぞ、メジャー。岩手・花巻東時代から憧れた舞台に、ついに立った。「初球からしっかりいこうかなと思っていた」。先発グレーブマンの内角のカットボールを、開幕直前に導入した、すり足に近いフォームで力強く振り抜いた。少年時代から貫く積極的な姿勢は、米国でも変わらない。一塁手オルソンの右脇を抜き、打球は右前に転がった。一塁到達後は、クールな表情でコーチとハイタッチ。「うれしかったですけど、まだ試合始まってすぐだったので、感じる余裕はなかったです」。

 5年間プレーした日本ハム時代は、DHで出場試合の待機時間に、ベンチから投手目線で相手打者を観察することもあった。ただこの日ばかりは「アバウトには見ましたけど、そこまで見る余裕はなかった」と投手大谷を“封印”した。目の前の試合はメジャーの開幕戦。さすがの大谷でも、気持ちの高ぶりを止められなかった。

 延長11回、4時間2分の敗戦を「長く感じました」と、少し笑顔を見せながら振り返った。メジャー初安打の記念球は、球団関係者を通じて大谷の元へ届いた。少年時代に「一塁までしっかり走ること」を教えてくれた父と母は、この試合に日本から駆けつけた。記念球は「両親に渡すと思います」。世界で唯一のプレゼントもできた。緊張感はあったか問われ「わくわくの方がどっちかと言ったら強かった」。オンリーワンの「二刀流」に挑戦すべく、待ちに待った「わくわく」する夢舞台。まずは野手として1歩を記した。

 

 ▼大谷が大リーグ初打席初安打。日本人打者の初打席初安打は6人目。開幕戦では新庄、松井秀、松井稼、福留に次ぐ5人目。デビュー戦の初球は松井秀、松井稼、福留に次いで4人目となった。投手では04年多田野(インディアンス)10年高橋尚(メッツ)12年ダルビッシュ(レンジャーズ)が、デビュー戦ではないものの初打席初安打を記録している。