海を越えて5年ぶりに実現した対決は、先輩右腕の圧勝に終わった。エンゼルス大谷翔平投手(23)が、メジャーで初めて対戦したヤンキース田中将大投手(29)に2打数2三振と封じ込められた。

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 ヤンキース田中の貫禄勝ちと言っていい。強風に霧雨、寒さと悪条件がそろっている中で集中を切らさず、エンゼルスを3安打に封じた。打線全体では、トラウトを抑えたことが大きい。前日に5安打、絶好調の2番打者を2奪三振とつぶして流れを断ち、余裕を持って4番大谷に向かった。

 大谷から奪った2個の空振り三振は、1回は泣きどころの内角、6回は真ん中から、ともに鋭くスプリットを落とした。「落ちるボールを振らせて打ち取ろう」という結果から逆算し、配球を組み立てていたように映った。コントロールに自信があるから可能となる思考で、すべてのボールに意志を感じた。

 特に6回の奪三振は、内角直球、外角スライダー、外角直球、真ん中スプリットと徹底して低めを続け、かつピンポイントでコントロールし、大谷を上回った。この低めの徹底に、メジャー5年目を迎えた田中の意地を垣間見た。

 大谷はヤンキースとの3試合で無安打に終わり、打率も3割を切った。実は前カードのブルージェイズ戦で、スランプに陥る兆しとなるような傾向が出ていた。

 ブルージェイズの捕手は、リードに定評のあるマーティンで高めの強いボールを多く要求した。つり球に反応した大谷は、体全体が伸び上がるようなスイングで、空振りする場面が見られた。きれいな軸回転で、腕を伸ばして低めのボールを捉える本来のスイングとは対照的だった。洞察に優れたマーティンは、高めの強い球と低めのチェンジアップ系を交互に要求し、大谷のスイングを崩しにかかっていた。

 有効だった直前の情報が頭に入っていたはずだが、それでも田中は低めにこだわって、結果を出した。「自分の投球をすれば、大谷には打たれることはない」と信じ、貫き通したのではないか。メジャーの強打者にもまれて、低めのコントロールに活路を見いだして、そこに負けん気の強さを重ね、今も完璧を追求している。データに頼らずに貫いた自分の投球から「まだまだ負けない」という、田中の強い気持ちが伝わってきた。(日刊スポーツ評論家)