【メサ(アリゾナ州)26日(日本時間27日)=斎藤庸裕】昨年右肘の手術を受けたダルビッシュ有投手(32)が、実戦マウンド復帰の気持ちを赤裸々に語った。

ダイヤモンドバックスとのオープン戦に、昨年8月19日以来191日ぶりに登板し、1回1/3を無安打2失点(自責1)だった。6年契約を結んだカブス移籍1年目の昨年は、ケガに悩まされ1勝3敗。義兄の死もあり人生観も変わった男が、再起を目指す。

   ◇   ◇   ◇   

懐かしい感情が次々とあふれ出た。ダルビッシュが、実戦マウンドの土を踏んだ。「正直めっちゃ緊張していた」。昨年8月以来、191日ぶり。いろんな思いが駆け巡った。

「(球場に)来るまでの車の中とか息詰まるじゃないけど、何て言うんだろうな。その、トラックとかちょっと軽く突っ込んでこーへんかなとか、そういうのもあった。強がってね、昔までは緊張しないとか言ってた。でもやっぱり登板日は(感じ方が)違います」

不安だった気持ちを隠そうともしなかった。昨年、右上腕三頭筋の腱炎(けんえん)や、右肘のストレス反応による痛みなどケガに悩まされた。百戦錬磨の男がネガティブにもなった。「今日、大丈夫かな、また痛みがあるのかな」。そう思いながら球場に来た。

マウンドに上がって一瞬、空を見上げた。それから前を向くと落ち着けた。「リハビリ中はなかったし、こういうこと(感情の揺らぎ)を味わえるのはすごく幸せなことと思った」。約19メートル先に捕手がミットを構える。その向こう、スタンドではファンが着るカブスのユニホームで青色が広がる。「またここに戻ってきたということが、信じられなかったという感じ」。五感をフルに使い、36球腕を振った。

気負いからか、制球が乱れた。「気持ちのコントロールというのもすごく難しかった」。打者8人に対して4四球を与えた。

「あーブーイングも来るわと思ったけど、ほんとそういうのも聞こえなかった。なんか、何ていうのかな。『帰ってきたね』みたいに僕は受け取りました」

大歓声ではなくとも、温かい拍手が待っていた。最速154キロの外角直球には力もあった。「真っすぐが良かったのと、痛みなく投げられたというのは本当に、すごく大きかった」。不安が安心に変わった。

登板後、笑顔があふれた。鋭い眼光はそのままに、どこか柔らかく、楽しそうな雰囲気を醸し出す。理由がある。昨年9月、義兄の山本“KID”徳郁さんが胃がんで急逝した。「キッドさんも亡くなられて、そこからこう、いつ死ぬか分からないし、今日帰り事故で死ぬかもしれないし、本当にそれは可能性のあること。だから今、一瞬、一瞬をしっかり、一生懸命生きたい」。ダルビッシュは今を生きている。

<ダルビッシュ有投手復帰までの道のり>

◆18年8月19日 右上腕痛などから復帰を目指し約2カ月ぶりにマイナーで実戦登板したが、肘付近に痛みを訴え19球で降板。

◆18年8月23日 精密検査の結果、シーズン中の復帰が不可能と発表された。

18年9月 右肘クリーニング手術。

◆18年12月20日 キャッチボールを再開したことを自身のインスタグラムで報告。

◆19年1月22日 手術後初めて傾斜のあるマウンドで投球練習。