<ブルージェイズ5-4マリナーズ>◇26日(日本時間27日)◇ロジャーズセンター

 【トロント(カナダ)=木崎英夫通信員】マリナーズのイチロー外野手(35)がブルージェイズ戦で日米を通じて初めて退場となった。5回に見逃しの三振をした際、判定を不服とするような態度をとったため、審判への「侮辱行為」とみなされた。この日は二ゴロ、左飛、見逃し三振の3打数無安打で打率は3割5分3厘。チームも延長10回4-5でサヨナラ負けした。

 92年にオリックスでプロ生活をスタートさせ、09年の今季まで未経験だった退場宣告を、イチローがついに受けてしまった。2-0とリードし、さらに追加点のチャンスの5回表1死三塁の第3打席。相手左腕のパーシーが外角へ投げ込んだ2球を見逃し、カウント2-0と追い込まれた。そして直後の3球目、再び外角に来る145キロ速球を自信を持って見逃した。だが、ブライアン・ランギ球審は右手を力強く挙げてストライクのコールで3球見逃し三振。

 イチローはそのコールに振り向きざま何か言葉を発すると、バットの先端でホームベースの外角の外れた地面に“通過したのはここ”と言わんばかりに線を引いた。「(退場の)可能性はあるだろうけど」と覚悟した上での線を引いた行為は「侮辱」と判断され、ランギ球審は迷わずに退場を宣告した。わずか3秒の即決だった。イチローはさらに球審に顔を近づけ、言葉を発しながら詰め寄るように見えた。ベンチを飛び出たワカマツ監督が間に入って、イチローの背中を押しながらベンチへ引き揚げさせた。

 試合後、イチローは落ち着いていた。笑みを浮かべながら「もうちょっと間を置いといて欲しいですよね。その作品としてはもうちょっと味わいたいですよね、その間を。その辺がちょっとね。演出能力の問題じゃないですか」。不名誉なプロ生活初の裁きにも、味気なさが残ったととらえるのがイチローらしい。

 これまでにも幾度となく納得できない判定と遭遇してきた。それでも不満を態度に表したことはなかった。今回の行為にも感情からではなく「なんか条件反射的な動きだけどね、どっちかというと」。

 ただ、モニター画面のリプレーではベース左上角を通過する白球が映し出されていた。祖父のエド氏、実父のポール氏ともにメジャーで審判員を務め史上初の3代審判員となったメジャー10年目のランギ球審のこの判定は確かなように見えた。イチローの退場で、マリナーズは15年ぶりに年間退場者を1人も出さないチームとなるまであと8試合だったが、それも消えてしまった。