谷繁マジックで総仕上げ! 中日谷繁元信兼任監督(44)がオープン戦残り2試合で「奇策」を繰り出した。「9番DH」で登板予定のない投手の朝倉を先発させた上、7回には無死一塁で同じく先発要員の吉見を代打で起用。本番を想定し、投手にも公式戦さながらのシーンを経験させた。開幕まで1週間を切り、異例すぎるタクトで「本気モード」を示した。

 2万7887人の観衆もどう反応していいのか分からない。「9番、指名打者、朝倉」。??? 右翼席の竜党からはパラパラとまばらな拍手。場内のどよめきは収まらなかった。

 筋の通った“奇策”だった。谷繁兼任監督が涼しい顔で説明した。「来週からセ・リーグの試合が始まりますから。1回でも多く打席に立ってもらい、実戦的なことをやらないといけない。その準備ですよ。特に先発投手は打席に立つことが多いわけですから」

 朝倉の第1打席は3回1死。走者はいない。それでも初球からバントの構えをした。1、2球目は構えだけで見送り。3球目は打ちにいったが見逃し三振。ボールに触れなくとも、生きた球をじかに見るだけで、意義は十分にあった。

 2つめのシーンは7回無死一塁。監督は8番松井雅のところで「代打吉見」を告げた。意図をくみ取った場内から、今度は拍手だ。本当に犠打を決めたい場面で吉見はきっちり決めた。もちろん本番で繰り出す作戦ではなく「練習」。大野もスタンバイしていたがチャンスがなかった。最終戦でも山井かバルデスがDHで“先発”の見込みだ。

 オープン戦はセ・パ主催にかかわらず、DHの採用は自由。どの球団も通常、1人でも多くの「野手」にチャンスを与えるためにDH枠を使う。実はセ・リーグの投手にとっては悩みの種だった。1打席も経験しないまま開幕して、はいバントしてください、ではむちゃというものだ。

 昨年は最後の2試合でDH制をとらず、投手を打席に立たせた。今年の中日打線は長打を期待できる打者が少なく、走力、状況別の打撃が生命線。9番目の打者になる投手の打撃や、バントの成否はポイントになる。キャンプから投手メニューにもバント練習を組み込んできた。

 ファンの前での「公開練習」にはジレンマもあったはずだが、すべては公式戦で勝利を届けるため。シーズン直前、監督・谷繁の本番モードがうかがえるシーンだった。【柏原誠】