巨人ドラフト1位の桜井俊貴投手(22=立命大)は1年目からの先発ローテ入りを目指す。最速150キロ右腕は、昨秋の明治神宮大会の東北福祉大戦で、巨人OBの江川卓氏の持つ記録を1つ上回る大会タイ記録の18三振を奪った。即戦力として期待される右腕のすごみを「スタミナ」「頭脳」「強心臓」の3つの視点から迫った。

 【◆頭脳】

 「64」。桜井が通った北須磨高の偏差値だ。中学3年時、神戸市大会で準優勝した右腕には報徳学園、神戸国際大付など、地元の強豪私学からもオファーが届いた。それでも、無名に近かった公立校の北須磨高進学を決めた。「途中まで勉強を頑張っていたし、野球だけに切り替えたら後悔するなと。高校は勉強で入って、勝負しようと思った」。

 得意科目は社会科。日本史が好きで、暗記が得意だった。大学の卒論は、鎌倉時代の御成敗式目をテーマに選んだ。「書いて覚えるタイプ。自分で書いたノートを映像として頭に記憶して、これはあそこに書いたなとかって思い出す」と言う。中学時代、塾には週3~4回通って、部活後、10時まで学習。合間に、自宅近辺を走り込んだ。

 クレバーさは、投球でも同じだった。マウンドではポーカーフェースを貫きながら、相手の動きから狙いを読む“したたかさ”も兼ね備える。「相手の裏をかくのが好きです。だましあいというか。自分の表情は隠して、感情の変化は見せないようにする」。

 普段から、人間観察するのが好きだという。己の心は読ませず、人の心を読む。「ずる賢い」と表現する頭脳で、打者との18・44メートルの駆け引きを制する。

 【◆強心臓】

 「1」。桜井はここぞの一発勝負で輝き、道を切り開いてきた。北須磨高では立命大の関係者が見守る中、3年夏の兵庫県大会の育英戦で8回コールド完封で、入学を決定。立命大では4年秋の関大戦で、巨人山下スカウト部長ら大勢のスカウトが見守る中で14回を1失点完投し、ドラフト1位を確定させた。

 「野球」。そのスイッチが人格を変え、勝負の神様を振り向かせる。普段は「目立たないように、陰で」と控えめだが、野球では「大舞台が好き。できるだけ前に」と一変する。「人と争うのが苦手で。けんかもしません」と言いながら、マウンドでは強気に打者に立ち向かう、もう1人の桜井へと変身する。

 「負けず嫌い」と自負するように、内からわき上がる闘争心は打者を圧倒する。同時に冷静な心が勝機をたぐり寄せる。転機は高校1年秋の履正社(大阪)との練習試合だった。1学年上のヤクルト山田にも1発を浴び「本塁打を8本打たれて、24-0で負けた」と大敗を喫した。

 桜井 もう、こんな思いはしたくないなと。真っすぐでガンガンいくスタイルから、冷静に緩急も考えて投げるように変わった。

 ここ一番での勝負強さを全国に証明したのは、昨年の明治神宮大会だった。巨人高橋由伸監督(40)も視察に訪れる中、大会タイの18奪三振。冷静と情熱の間で、「巨人ドラ1」の重圧をはね返した。

 【◆スタミナ】

 「206」。昨年10月14日、関大戦の投球数だ。桜井は延長14回を投げ抜き、1失点で勝利した。「次の日は体が張って、自分の体じゃないような感じでした」と笑ったが、その10日後の同大戦でも9回2失点で完投。「150球くらいなら、と思えるようになった」と大学球界屈指のスタミナは、桜井の代名詞とされた。

 エネルギーの源は、鍛えた胃袋にある。最近の趣味は「食べること。焼き肉が好き」と話すが、大学3年秋には、1日5食プラス間食にあんパンを食べる“あんパントレ”を導入。コンビニなどで販売される「5個入りの薄皮あんパン」を食事の前や授業の合間に食べ、75キロから82キロの増量に成功した。

 スタミナ温存の思考も、桜井流だった。「バッターを見て、打つ気がなさそうなら、スッと投げたり、その反対にグッと投げて、意図的に力感を出したり」と力の加減を操作。「投げること以外に、体力を使いたくないんです」と、ガッツポーズやジェスチャーは極力控えて投球に徹する。

 幼い頃から力は強かった。幼稚園に入るまでは“公園の番長”で、母・幸子さん(53)からは「暴れまくって、手が付けられなかった」と聞かされた。海岸で祖父・治さんと「チャンバラごっこ」中にも、祖父の刀を海にはじき飛ばすなど、同年代と比べ、その力は突出したものだった。【取材、構成=久保賢吾】

 ◆桜井俊貴(さくらい・としき)1993年(平5)10月21日、兵庫・神戸市生まれ。小4から野球を始め、投手一筋。北須磨では秋の兵庫県大会ベスト8が最高。立命大では通算28勝を挙げ、3年秋にはプロと混合チームのU-21日本代表に選出された。181センチ、82キロ、右投げ右打ち。家族は父、母、姉。

<桜井アラカルト>

 ◆特技 釣り。幼少期は兵庫・明石へ祖父治さんと海釣りに出かけ、アジなどを釣った。自宅に持ち帰って、祖父が調理してくれる料理が好物だった。

 ◆趣味 テレビ鑑賞。特に関西の深夜番組が好きで、ABC朝日放送の『今ちゃんの「実は…」』がお気に入り。深夜のため、ビデオ録画する。

 ◆公立の星 2年夏の兵庫県大会の神戸西・須磨・須磨翔風の連合チーム戦で好投手・福敬登(23=JR九州-中日ドラフト4位)と投げ合って、無四球完封。第2試合以降の強豪校の取材に訪れた報道陣に衝撃を与え、一躍脚光を浴びた。