燕のベテラン左腕が、金字塔を打ち立てた。ヤクルト石川雅規投手(36)が8回2/3を6安打2失点で、通算150勝を達成した。金田正一、松岡弘に続く球団史上3人目の偉業。完投こそ逃したが4連勝の原動力となり、阪神との直接対決を制して4位に浮上。昨季のリーグ王者が、2・5ゲーム差につける逆転CS進出へ、勢いを加速させた。

 感謝の思いが、あふれ出た。球団史上3人目の通算150勝。ヤクルト石川は、言葉をかみしめた。

 石川 僕1人では、達成できない。応援してくれる妻、2人の子ども。ルーキー時代から使ってくれた監督やコーチ、裏方さん。僕らは1人ではグラウンドに立てない。

 公称164センチの体で、弱肉強食の世界を生き抜いてきた。「僕は球が本当に遅いから。150キロの剛速球が投げられるわけでもないし」と、1球の出し入れに全神経を注いできた。気づけば15年目。体も少しずつ衰えてきた。視力は左目が0・8、右目は0・4。「屋外だとたまにキャッチャーのサインが見えなくなる時もあって。でも言い訳は出来ないからね」と、低めの制球に命をかけてきた。

 息子たちの顔も、脳裏に浮かんだ。特に次男栄寿(えいす)君には特別な思いがあった。「最近、サッカーを始めてね。でも何をやっても、ヤクルト石川の息子。子どもはそういう目で見られる。だからオヤジってすごいんだぞって証明したくて」。一家の主として、ふがいない姿は見せられなかった。

 だからこそ、表情が険しくなった。9回2死、完投まであとアウト1つ。単打と四球で、秋吉にマウンドを譲った。チームの勝利を見届けても、笑顔はなかった。真中監督から尻をたたかれたが、「あそこで完投できないのが、僕らしいですね」と悔しがった。

 それでも13年7月25日以来、勝ち星から遠ざかっていた阪神から3年ぶりの白星。「偉そうなことは言えないけど、次は200勝を目指したい」。チームを4位に浮上させた小さなエースは、逆転CS進出まで、体力の限界まで腕を振り続ける。【栗田尚樹】

 ▼石川が阪神21回戦(甲子園)で今季6勝目を挙げ、プロ野球48人目の通算150勝を記録した。ヤクルトで150勝以上は金田、松岡に次いで3人目。初勝利は02年4月4日広島3回戦(神宮)。石川は青学大卒。日本で大卒150勝以上は西口(西武)以来10人目、左腕では初となる。