育成もソフトバンク強さの象徴だ。2日に優勝マジック20を点灯させたソフトバンクは3日、千賀滉大投手(23)が1失点完投で育成ドラフト出身の投手としては最多となる12勝目を挙げた。9回に失点し完封こそ逃したが、本格的に先発に挑戦して1年目の右腕がここまでわずか1敗という安定感。チームの3連勝を導き、自力でマジックを減らした。

 育成の星は、ヒーローインタビューの依頼を少し渋った。「また1点取られたんで。そこはですね…」。千賀は思わず苦笑した。打線の援護に守られ、プロ初完封は目前だった。しかし9回、先頭ペレスから2者連続四球。捕逸もあり、タイムリーなしで1点を失った。気落ちするのも無理はない。それでも好調の楽天打線を9回5安打に封じた。自責点はゼロ。堂々の12勝目だ。育成出身では巨人山口を抜き、シーズン最多勝となった。

 完封は逃したが、工藤監督の信頼をつかんだ1勝でもあった。今季は過去に2度、8回を無失点に抑えたが、サファテの救援をあおいだ。面と向かって、「信頼してない」と言われたこともある。この日、続投への意思を聞かれると、千賀は即答した。「行きます!」。工藤監督もうなずき、ゴーサインを出した。念願は達成できなかったが、9回のマウンドに立ったことに意義があった。指揮官はこの日の投球に胸を熱くした。「素晴らしい投球だ。気持ち通りのボールだった。直球、フォーク、変化球は超一級。そこに気持ちが乗るようになってきた。それが勝ち星につながっている」。

 直球は150キロを超し、落差の大きい「お化けフォーク」が最大の武器。それだけでなく、この日のようにカーブとスライダーも効果的に使う。これでは打者は的を絞れない。8回までは三塁も踏ませなかった。「野手が点を取ってくれたので、ストライクゾーンに投げるだけだった」。この言葉は謙遜にしか聞こえない。今季はまだ1敗。あと1勝すれば、最高勝率のタイトルが見えてくる。

 12勝の感想を聞かれると、「特にない。そんなに大きなことは言えない。(育成選手が)少しでも刺激を受けてくれたら」と最後まで控えめだった。まだプロ初完封という宿題がある。飛躍を止めない右腕の存在がチームの推進力だ。王手をかけてから8度足踏みするなど点灯に苦労した優勝へのマジックは、さっそく減った。【田口真一郎】

 ▼千賀が12勝目。育成ドラフト出身で12勝は、08年山口(巨人)の11勝を抜き、シーズン最多勝利数を更新した。今季3度目の完投で投球回を150回1/3に伸ばし、最終規定投球回数(143)をクリア。育成ドラフト出身では12年山田(ソフトバンク=148回2/3)に次いで2人目で、投球回では山田を抜いてシーズン最多。