なぜ、あの球を投げさせてしまったのか…。阪神で2番手捕手の岡崎太一は胸に「悔い」を抱いたまま、先週末を過ごしてきた。悪夢を見たのは20日の中日戦(ナゴヤドーム)だった。1点差に迫った8回から出番が訪れる。2死一塁。継投直後のマテオが投げた初球の外角直球を右翼席に運ばれた。万事休した痛恨の被弾が脳裏をよぎるのだ。

 「ビシエドは真っすぐに振り遅れていました。結果も出てなかったけど、外国人は初球から振ってきやすい…。実際に自分がマスクをかぶって座ったときの『感じ』を大切にしないと」

 控え捕手はベンチから正捕手の配球を観察し、起用に備える。ビシエドの不調を感じ取りながらも打たれてしまった。この教訓を鮮やかに生かしたのが25日のDeNA戦(甲子園)だった。

 0-1で迎えた9回は1死一、三塁。左腕高橋と岡崎は4番筒香を迎える。その初球、内角速球にファウル。2球目もミットを内寄りへ。139キロ速球で捕邪飛に抑えた。「寝る大砲を起こすな」は、このカードで阪神バッテリー最大の合言葉だろう。内角攻めの徹底で主砲封じ。観察、そして直感に裏打ちされた根拠をもって、完璧に抑えた。

 ポイントはバットの出方を察知したことだ。WBCで日本代表の4番を務めた筒香が、いまだ0本塁打の異変について、他球団スコアラーが「バットのヘッドが出てきていない」と指摘する。これは阪神も気づいている印象だった。

 バットが遠回りしていれば内角球をとらえにくい。だから、初球から直球を内側へ。強振はファウルになった。「軽打しての外野フライやヒットもダメな場面。最初から結果球です」。2球目をどうするか。岡崎は瞬時に判断する。

 「高橋も腕が振れていました。右対左を見ていたし、左対左なら、より厳しいところを突けば、というのはありました」

 伏線があった。岡崎は一塁ベンチから7回、右腕秋山の配球を見ていた。1-1からの3球目。内寄り直球のファウルに苦戦が見て取れた。しかも、球威十分な左腕との対戦だ。初球でスイング軌道を見極め、筒香の現状や投手の左右などをてんびんにかけて懐を突いた。負けはしたが、難敵を封じた。抑え捕手の面目躍如だろう。岡崎は言う。「ビシエドにやられて。でも、勉強している場合じゃない。抑えないと」。5日前に傷を負ったベテランが選ぶ勝負球に、意地がにじんだ。(敬称略)