苦労人のサヨナラ打を呼んだのも、苦労を重ねた男だった。阪神原口文仁捕手(25)が9回に同点打。延長11回の岡崎のV打につなげてみせた。野球の神様は見ていたはずだ。彼らが努力を重ねてきたことを-。
原口は信じてきたバットを見て、息をふーっと吹きかけた。1点差に迫った9回1死一、三塁。命運を分ける場面で、代打としてコールされた。初球は見逃してボール。思い切ってスイングしたは2球目だ。「(相手の)一番いいボールをなんとか打ち返そうと思っていた」。守護神増井の直球をねらい澄まし、はじき返した。放った打球はセンターへ抜ける。起死回生の同点打だ。
「全員でつないでくれたチャンスだったので、ランナーを返すことだけ考えた」。チームは8回まで3安打。5回からは無安打が続いていたが、3連続四球から広がった同点機。ひと振りで劣勢をはね返した。これで今季の代打成績は9打席で5度も出塁。タイムリーも2本目だ。
「早い回に準備をさせてもらったので、しっかり準備して打席に入れた」。1度は7回にネクストバッターズサークルで出番を待った。その回はキャンベルが打席に立ったが、集中力は途切れない。そして、この男にはたったひと振りでも揺るがない信念がある。
自ら編み出した「トントン打法」を迷いなく続けてきた。投球が開始されるとき、打席で左かかとを浮かして「トン」と沈める。次に軸になる右足を同じように「トン」と沈め、体重移動をはかる。
「去年の今頃から。誰の助言とかじゃなくて、自分の中でリズムをつかんできた」。スタートは育成選手から再び支配下選手にはい上がってきたころ。積み上げた感覚でリズムを奏でてきた男は、この日も快音を響かせた。
ただ、一打サヨナラの好機だった11回の打席では、遊ゴロに。併殺かと思われたが、相手の失策で命拾いした。「太一さんが打ってくれたので助かった」。試合後は先輩捕手に感謝し、胸をなで下ろした。それでも、原口の一打がなければ、岡崎の劇的サヨナラ打もなかったかもしれない。助け、助けられ…。魂のこもった戦いを続けるからこそ、虎党のハートを揺さぶるミラクルも起きる。【真柴健】



