金本チルドレンが、区切りの勝利を指揮官にプレゼントした。阪神原口文仁捕手(25)が延長10回、1死満塁から左前にサヨナラ適時打。昨年4月に育成選手だった原口の支配下登録を決め、ここまで育ててくれた恩人に通算100勝目を届けた。

 燃えないはずがない。目前で鳥谷が敬遠された。原口は高ぶる感情を抑えきれなかった。「中谷が出たところで(自分と)勝負だと思っていた。心の準備はできていた」。

 同点の延長10回1死満塁。積み重ねてきた努力の成果を発揮する舞台が整った。大歓声を背に受けて、ゆっくりと打席に向かう。あっさりと2球で追い込まれたが、決して諦めない。「(追い込まれたので)打ち方を変えて。センター中心で。いいポイントで打てた」。真ん中にきた151キロをレフトへサヨナラ打。甲子園の熱気が爆発した。

 金本監督も大絶賛だ。「(先発を)俊介と原口で悩んだが、原口もそろそろ打つ頃かなと。最初の2打席を見たらガクッときたけど。最後は彼らしい勝負根性。彼の集中力、強さでした。恐れ入ります」。

 金本阪神の100勝目は、チルドレンの代表格が自身3度目のサヨナラ打で決めた。「教えてもらったんで記念のときに打ててうれしく思う。さらに監督が勝っていけるように貢献したい」。昨年4月、育成選手だった原口を支配下登録して、ここまで使ってきたのは金本監督。この夜、また1つ恩返しができた。

 試合前、とある交流があった。前日14日に本塁打を放った西武中村から「おかわり」と刻印の入ったバットをプレゼントしてもらった。「外では使いませんよ。練習で使いたいと思います」と練習熱心な原口らしいせりふ。パ・リーグを代表する大砲との触れ合いが、原口の刺激になった。

 この日も全体練習が始まる前に「個人練習」を始めていた。選手たちが通路を歩いてグラウンドへ向かう時間帯、1人だけ逆走して荷物を取りに行く姿があった。「練習でもたくさんの方にサポートしてもらって、いい準備ができてたので、結果が出てよかった」。ひたむきな姿勢を野球の神様は見ている。

 もう定着したであろう、この言葉。「必死のパッチでサヨナラやりました!」。お立ち台でそう叫ぶ男がいる限り、虎は強い。【真柴健】