呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャ~ン! 楽天はゼラス・ウィーラー内野手(30)が19号2ランを含む3安打4打点と暴れ、ソフトバンクから首位を奪い返した。そっくりな容姿がきっかけで「ハクション大魔王×ウィーラー大魔王」という絶妙のコラボが実現した一戦。梨田昌孝監督(63)はじめ全スタッフが「ウィーラー大魔王Tシャツ」を着て練習する徹底ぶりで、1回の4失点をはね返した。魔法がかった1勝で貯金は今季最多の24。明日11日から敵地で首位攻防戦だ。

 日本アニメの天然記念物が仙台に降臨した。還暦を過ぎた梨田監督の胸にも、しっかりとハクション大魔王…にうり二つの「ウィーラー大魔王」がプリントされていた。試合前「これ…かわいいよね」と少し照れつつ「ファンに愛されている。彼が打つと盛り上がるから」と期待する先に、三塁で一生懸命ノックを受ける実物の姿があった。

 現実とアニメがごっちゃになるほど似ている。ベンチ上座には、ずっと前からハクション大魔王が張られている。本人も「2年前くらいから知っている」。タツノコプロは「そういうことなら、ぜひ使って欲しい」と快諾した。ファンにもボードが配られた。もう「アラビン ドビン ハゲチャビーン!」と暴れるしかなかった。

 1回に2点適時打。3回に19号2ラン。1人で1回の4点ビハインドを取り戻し、7回には好機拡大の右前打。本家の決めぜりふよろしく3本打った。見逃せないのは8回2死二塁の三塁守備。三塁線をギュッと締め、西武山川の球足速いゴロに魔法をかけて封じ込めた。「日曜の午後。天気もいい。うれしい。いつもスペシャルな気持ち」。ピュアな言葉。勝負にのめり込んで喜怒哀楽をむき出しにするスタイル。野球をやれる喜びを目いっぱい表現しているから響く。

 今のウィーラー大魔王を予言していた人物がヤンキース田中だ。「柔らかくって、変化球を打つのがうまい。何より野球に対してすごく真面目だし、ハングリー。日本で活躍できると思いましたね」。1年間ともにプレーし資質を見抜いていた。2回の守備で打球が当たった右手は「大丈夫」とピシャリ。ピンストライプでもまれて捲土(けんど)重来を期す野球人は、つかんだ場所を絶対に手放さないメンタルを忍ばせている。だから自分から「下がる」と絶対に言わない。

 屋根裏のつぼ…ではなく海の向こう、猛者のるつぼから飛び出してきた男。明日11日からのソフトバンク戦は「シーズンは長い。ただの2試合。勝ってCSや優勝が決まるわけじゃない」と決めた。最終回、涙のVまで。くしゃみもあくびもしている場合じゃない。【宮下敬至】

 ◆ハクション大魔王 69~70年に放送されたテレビアニメ。くしゃみによって呼び出される同名の主人公と、あくびによって登場するアクビちゃん、魔法のつぼを発見した“ご主人様”の小学生かんちゃんが繰り広げるギャグストーリー。何度も再放送され、今も高い人気を誇る。製作は「ヤッターマン」などを手掛けたタツノコプロ。