書けていたはずの薔薇(ばら)が、書けなくなった-。西武菊池雄星投手(26)は2段モーション問題に直面した際の気持ちをこう振り返った。「今年の西武」のシーズン終盤に余儀なくされたフォーム変更という試練を、いかに乗り越えたか。そこにプロ8年目の飛躍を支えた進化があった。

 昨年のオフ、菊池は個人トレーナーから「薔薇って漢字、知っている?」と問われた。「知ってますよ」と答えたが「書いてみて」と言われると、書けなかった。

 菊池 「雄星の投球はそれと同じ」と指摘されたんです。自分の中で知っていると思っていても、書けないのであれば知らないのと同じ。投球も、なぜ、その球がそこにいったのかを説明できなければ、技術とはいえない。そのために必要なのは、いかに自分を客観視できるか。今年はそれをテーマに置いてやってきました。

 体の軸、体重移動、リリースポイント…。1つ1つの動作理由を自分で説明できるまで突き詰め、今季のフォームを作り上げた。その積み重ねがマウンド上で「頭の後ろから、自分の投球を見ることができていた」という領域に引き上げた。常人には理解しがたい客観視の感覚をつかみ「1球1球がなぜ、そこにいくのか分かるようになった」。今年の菊池は薔薇を書けるようになっていた。

 そのフォームが否定された。2段モーション判定の原因は、投球動作に入って右足を1度上げた後、再度上げる段のついた動き。その動きをせずに投げるにはどうするか。解決策は軸足(左足)への、力のため方の変更だった。「軸足に重心を乗せたい、乗せたいと思った結果、自然に2段になっていた。ならば違う形で軸足に乗せればいい。どのくらい乗せたらいいかは、体が覚えているので」。

 薔薇を書けたから、2段になった経緯をさかのぼり、打開方法を導き出せた。右膝をこれまでよりもゆっくり上げ「この速さであれば、今までと同じ感覚で力をためられる」新フォームにたどり着いた。

 過去の自分も支えになった。2度目の反則投球を宣告された8月24日ソフトバンク戦後。高校時代から気付いた点を書き留めてきた投球ノートを見返した。約10年間繰り返してきた試行錯誤の歴史。「ずっと(上体が)突っ込まないために工夫してきたことにあらためて気付きました」。

 フォーム構築の原点回帰と同時に、逆境を乗り越えてきた多くの経験も思い返せた。勝てなかった1年目に感じた周囲からの風当たり。故障もあった。「逆境に慣れている部分もあるかもしれない。今までのことに比べたら今回の問題は全然」と割り切れた。

 新たなフォームで臨んだ8月31日楽天戦から4連勝。それでも短期間で作り上げた急造ゆえに「何でボールなのか、何でストライクなのかさえ分からなかった」と明かす。書けない薔薇を「2段だったから勝てたと言われたくない」と意地で補った。薔薇を書けるようになったのは10月14日。完封勝利を決めたCS第1ステージ楽天戦だった。

 2段モーション問題は菊池にとって、何だったのか。「それくらいじゃ崩れません、という見せどころでした」。16勝6敗、防御率1・97。自分の投球を知った男にとって、8年目の飛躍は必然の結果だった。【佐竹実】

 ◆西武菊池の2段モーション 8月17日楽天戦で初めて反則投球の宣告を受けた。続く同24日ソフトバンク戦の初球に再度宣告。審判員から「段がついている」と初めて問題点の説明があった。同27日、球団とNPBが話し合い。菊池はここから新フォームに着手。同31日楽天戦を9回2失点に抑え、白星を挙げた。