巨人高橋由伸監督(42)は就任2年目の今季、「変心」を見せた。開幕投手の直前変更、マギーの二塁手固定。当初の発言をひっくり返し、采配を振った。「今年の巨人」は球団史上初めてCS進出を逃したが、指揮官の心変わりが、来季逆襲への弾力となるか-。

 うねるような、はねに変化していた。開幕目前。高橋監督が今季スローガンである「新化」をサインにしたためる。「化」の部首「匕」の最後の1画。昨年おおみそかの発表時は、真っすぐはね上がっていた書体が、変わっていた。

 想像した。当初の天に突き上がるような真っすぐな、はね。頂点への断固たる意思を連想させた。それが17年の戦いの幕開けを前に、さまざまな苦難の道のりを自覚し、紆余(うよ)曲折を予感したのか-。それでも栄光のゴールを目指すことに変わりはない。新たな書体は指揮官の心境を表すものではないかと考えた。聞いてみると想像とは違った。

 高橋監督 本当は最初から曲がっているはねで書こうと思っていた。だけど発表まで練習が間に合わなかったからね。

 自筆が求められたスローガン公表を前に先生に習ったという。だがシンプルなスタイルで仕上げるしか時間的な余裕がなかった。

 ただ、それで終わらなかった。うねりの形も練習を続け、完成させた。「こっちの方が格好いいと思ったからね」と屈託なく笑った。

 書体に込められた意味はこちらの妄想だった。だが1度決まったものを、崩すことをいとわない。この深層心理は就任2年目の指揮官のタクトにも見られた。

 昨年秋季練習中にエース菅野に今季の開幕投手を通達した。WBCで勝ち進めば米国ラウンドに渡り、チーム合流は開幕目前となる。強行日程は想定しながらも任せた。実際に勝ち進んだ。海を渡ることが決まった3月中旬。「開幕投手を変えないのですか?」と聞く機会があった。

 高橋監督 本人の意思を聞かないとね。ただ本人が行きたくても、こちらが止めるケースもある。最後に決めるのはオレだから。

 そして開幕4日前にマイコラスに大役をひっくり返したことを公にした。菅野からの「思ったより疲労はありました」との言葉をくみ、指揮官として決断した。開幕投手を譲ったが、エースが後に演じた大車輪の働きは周知の通りだ。

 “前言撤回”は、まだあった。7月12日、前半戦最終戦のヤクルト戦でマギーを二塁手で初先発させた。成功を収めても直後は「1年間ずっと持つと思う?」と継続については否定的だった。だがフタを開けてみれば、二塁手マギーはシーズン終了まで固定された。

 変心と書けば、ブレているようにも思われるかもしれない。だが勝負の世界では時として機を見て、考えを変えなければいけない時がある。夏ごろ、将棋で連勝記録を樹立した藤井四段について聞かれ、答えた。「勝負の世界で勝ち続けることは本当に難しい」。勝つために変心する。来季こそ、チームを変身させる。【広重竜太郎】