星野仙一氏はここ数年、秋の人事シーズンになると「慎也は何をしてるんだ」が口癖になっていた。「外から勉強はもういいだろ。絶対に指導者にならなくてはいけない人材だ」。今季からヤクルトのヘッドコーチを務める宮本慎也氏(47)に、自分に通ずる資質を見ていた。

 「慎也は小じゅうと。選手をしっかり叱れる。今、叱れるヤツが本当にいない。はたから見るより大変なんだよ。自分に厳しくないといけないし、嫌われることを怖がってはできない。それに、プロ相手に言うということは、絶対の正解を持っていないといけない。アイツは野球博士だ」

 08年の北京五輪で頼りにした。選手、主将としてはもちろん、一塁コーチスボックスに置いた。「将来、役に立つだろうから」と三塁コーチも任せようとしたが、やんわり断られた。

 評論家・宮本慎也も認めていた。「厳しい評論がいい。これも難しいんだ。相手に気を使うと正しいことを書けない」。自身も現役引退後の4年間、評論活動をした。「やってたから分かる。しかも当時は原稿用紙に手書き。締め切り時間に追われて必死に書いた。今じゃ考えられないけど、選手と一緒に風呂に入って話を聞いたり。日本一の評論家になろうって」。

 楽天を酷評した宮本氏の記事を切り抜き、一般の人も往来するキャンプ宿舎のロビーに貼った。「これに腹を立てるヤツは小さい。事実が書いてある。楽天への愛情だ。全員、いやが応でも読むようにな」。古巣ヤクルトへの復帰は「それが一番いいよ」と喜んだが本音もあった。冒頭の口癖は、もう1度ともに戦う縁があるかの探りだった。

 宮本氏には忘れられない感触がある。「握手で相手に強く握られるのが自分は結構、苦手で。でも星野さんの手はでっかくて厚くて、包み込むように握ってくれる。優しいんだよね」。手を通して思いを感じていた。【宮下敬至】