虎党をしょんぼり帰らせるわけにはいかない。2点を追う土壇場9回裏、福留孝介外野手(40)が起死回生の同点2号2ランを放った。これが記念すべき日米通算300号! チームの勝ちには結びつかなかったが、日米を股にかけて戦ってきた20年目のバットマンが、貫禄の1発で虎党を酔わせた。
右中間スタンドへ届いた美しい放物線。熱狂するスタンド、ベンチの視線を一斉に浴びた。一塁を回ったところで福留は右手で小さく拳を2度固める。わずかな感情表現を終えると再び表情を引き締めた。2点を追う9回無死一塁。カウント2-2からの高めの直球を、体ごと引っ張った。同点に追いつく2号2ラン。日米通算300号を、ここぞの場面で放ってみせた。
「みんなが(執念を持って)そういう思いでつないでいったから」
起死回生の1発。ただ延長戦の末に試合には敗れ、試合後の表情は暗い。普段から「個人のことはどうでもいい。チームが勝つために何が出来るか」と決まって口にするキャプテン。6回には1死一、二塁で併殺に倒れるなど9回まで3打数無安打。絞り出したのは「その前になんとかしておけばね…」という反省だった。節目のアーチよりも、試合を落とした悔しさがすべてだった。
強い、勝てるチームにしたい。それだけが福留の体を動かす。時に厳しい言葉もかけるのも、チームが正しい方向に向かってほしいから。「優勝するためならね、嫌われようと好かれようと、どうでもいい」とまで言える。深くかぶった帽子の奥で目を左右に動かし、観察。「1歩引いて見ることが多くなったかな。なるべく気持ちに響くようにいろんな話が出来ればいいなと思って」。ボソッとつぶやいたり、笑ったり。届く相談や悩みにも福留は正面からぶつかる。
26日に41歳を迎えるとは思えない体のキレ、パワー。「年齢で野球をやるわけじゃない。そうなんだ、としか思わない」と笑うが、準備のたまものだ。ナイターでも午前中には球場入り。「鳥谷さんと福留さんは本当に早い」と若手選手も驚くほど。試合前練習の前にはパーカを着て1人、ポール間をダッシュする。姿勢と結果が胸のCマークを輝かせる。試合後、金本監督も「あそこで打ってくれるのが孝介」と最敬礼。次の一打は勝ちにつながるように。記録より、1発より、勝利を。福留は欲している。【池本泰尚】
▼福留が日米通算300本塁打。メジャー経験のある日本人選手では松井秀喜、中村紀洋に続き3人目。松井は国内だけで332本の後、渡米し175本塁打。中村は日本で404本塁打も、メジャーでは0本。日本とメジャー合わせての300本塁打到達は、福留が初となった。