来たで、来たで! 金本阪神がDeNAに逆転勝ちし、カード3連勝。巨人を抜いて3位に浮上した。9回の勝ち越し点は相手失策によるラッキーなもの。しかし、その直前に4番筒香を三振に切って流れを呼び込んだのは3番手能見篤史投手(39)だ。同投手はこれで通算100勝に到達。球団生え抜きでは山本和行以来、33年ぶりとなるメモリアル星となった。

 冷静に、落ち着いて。能見が筒香の内角低めに145キロを決めた。同点の8回2死一塁。外野手はフェンス手前までいっぱいに下がっていた。失点が限りなく敗戦を意味する終盤。それでも「逃げずに腕を振ることだけを心掛けました。気持ちはボールでもいいと思って」と攻めた。カウント1-2から2球連続の内角攻め。バットすら出させず、見逃し三振で仕留めた。

 うつむく敵軍の主砲と対照的に、能見は感情をまったく出さずに三塁ベンチへと歩を進めた。試合はまだ続いている。中継ぎになっても、登板を重ねても同じだ。「感情は必要。出してもいい。でも僕は出さないことを選んだ。敵にも味方にも見せたくないから」。クイックや投球間の間合いも工夫。熟練の技で勝ち越し点を呼び込んだ。

 歴史に名を刻んだ。9回に自軍が勝ち越し、プロ野球135人目の100勝が転がり込んできた。阪神生え抜きでは33年ぶり。守護神ドリスから受け取ったウイニングボールは「一生懸命支えてくれる家族に、持って帰りたいと思います」と照れずに言った。休日になれば「お出かけもしますよ。そこらへんのデパートとか」と言う。ファンに気付かれようと「気にしないです。それより家族との時間が貴重で大切だから」と家族への思いが次々にあふれ出る。

 大きくて、貴重な1ページが加わる。「もう、結構な数になったね」。登板翌日になると、リビングで千江子夫人がスクラップを始める。新聞から能見の記事を切り抜き、ぺたぺた。スクラップブックとなって本棚にしまわれていく。プロ野球選手としての軌跡が形として残されている。1軍に定着出来なかった時代から続く能見家の習慣。「今は子どもに追われているので」と笑うが、節目の勝利は家族にとってもうれしい作業に違いない。

 チームは能見の力投に引っ張られて3連勝。借金を3まで減らした。ベテラン左腕の大台到達は、チームの勢いを加速させるはず。「中継ぎにしても、野手にしても、いろんな方が支えてくれたおかげです」。移動のバスに乗り込む手前、感謝の言葉を並べ、能見は少しだけ笑った。【池本泰尚】

 ▼能見がDeNA10回戦(横浜)で今季2勝目を挙げ、プロ野球135人目となる通算100勝を達成した。初勝利は05年4月24日の横浜6回戦(横浜)。阪神で100勝以上は11人目で、左腕では江夏豊159勝、山本和行116勝に次いで3人目。球団生え抜きの到達は、85年山本以来33年ぶり。また、39歳1カ月での100勝到達は07年下柳剛(阪神)の39歳1カ月と並び球界最年長での到達となった。