金本阪神が無敗カラシティーを沈めた。浮上への号砲を鳴らしたのは鳥谷敬内野手(37)だ。2-1と1点リードで迎えた6回に今季1号ソロ。貴重な追加点を挙げるとともに、続く梅野隆太郎捕手(27)の連弾を呼び込んだ。鳥谷はこの日3安打で、藤田平の持つ球団最多2064安打にあと8本に迫った。

 花火が打ち上がった直後の神宮球場。煙のにおいがかすかに残る中、鳥谷は無駄なくバットをトップの位置に置いた。大歓声に包まれながら、左打席だけは静寂の空間。「塁に出ようと思ったのが、たまたま…」。左翼席へライナーを放った瞬間、音を取り戻して走りだした。

 1点リードの6回1死、カラシティーの外寄り146キロを力みなく振り抜いた。昨年9月1日中日戦以来351日ぶり、今季212打席目での初アーチでプロ1年目から15年連続本塁打を達成した。8月18日での1号は最も遅い到達。「うれしいんだか悲しいんだか」。試合後は苦笑いしたが、勝利への道のりをはっきり浮かび上がらせる値千金弾に違いなかった。

 不振もあり出場機会が激減した今季。陽川の負傷離脱から再びスタメン出場の機会を増やした。実戦勘さえ戻れば、勝負どころでの集中力には自信がある。

 「バッターをしっかり応援しような!」。野球少年だったころ、指導者の何げない言葉にいつも違和感があったという。「なんの意味があるんだろう…ってね。自分は小さい時から打席に入ると、何の音も聞こえなくなっていたから」。もちろん、プロに入ってからも「無音の空間」は変わらない。いざ打席に入れば、虎党の熱烈な応援は耳ではなく全身で吸収。この日も集中力を研ぎ澄まし、久々の1発を放り込んだ。

 横浜遠征からの帰阪日だった13日は朝5時起き。朝イチの飛行機便で大阪に戻り、一目散で滋賀へ向かった。サッカー少年である愛息の勇姿をゲームで見届け、エネルギー十分でスタートした1週間。2戦連続マルチ安打となる3安打で、通算安打は2056本。藤田平の球団最多2064安打まであと8本とした。

 同点の4回無死一塁には中前打で勝ち越し劇をお膳立て。8回には先頭で力強く一、二塁間を抜いた。「(自分は)ヒーローじゃないでしょ」。ヒーローインタビューを固辞した後、「投手が頑張ってくれていたので勝てて良かった」。虎を勝利に導いた背番号1。勝負のシーズン終盤、本領発揮の時期が来た。【佐井陽介】

 ▼鳥谷が今季1号。チーム100試合目のシーズン初本塁打は、05年の65試合目(6月15日西武戦)を大幅に更新し、プロ最遅。212打席目は、05年の261打席目に次ぎ2番目に遅い。