感謝のアーチを描いた。新井から「広島の4番」を受け継いだ鈴木は、4点追う1回2死一塁から阪神岩貞の内角球を詰まりながらも左翼席に突き刺した。28号2ランで、自身初シーズン30発を射程圏に入れた。

昨季序盤から4番で起用された。結果が出ずに苦しんだ時期もあったが、先代に食事の席で4番の心得を伝授された。さらにグラウンドでの背中を見て「自分を犠牲にしてでも1点を取りにいく姿勢を見せてもらった。いつか、ああいう選手になりたい」と思った。

プロの立ち居振る舞いも学んだ。昨季途中までは、打ち取られた直後にベンチで感情をぶつけ、叫ぶ姿も見られた。そんな姿を新井に指摘された。「テレビでは子どもたちも見ている。誠也も4番になったんだから、見られていることを自覚した方がいい」。その日からベンチで叫ぶのはやめた。感情があふれる時は、右翼のポジションでグラブで口元を隠して叫ぶようになり、今季は試合中も表情に落ち着きが見られる。

引退が発表の日に大敗。「勝ちたかった」と悔しさに唇をかみながらも、前を向く。「いろんなことを教えてもらって、少しでもできるようになりました、という成長した姿を見てもらいたい」。求めていくものは、日本一という結果だけではない。【前原淳】