今季限りでの現役引退を表明している中日浅尾拓也投手(33)が最後のマウンドに上がった。9回に登板し、阪神中谷から空振り三振を奪った。自身が熱望した岩瀬仁紀投手(43)との鉄壁リレーも実現。黄金時代を支えた右腕が涙の力投でユニホームを脱いだ。

投球練習の時から、浅尾の目は潤んでいた。4点を追う9回。自らの名がコールされ、マウンドに向かった。そこに森監督が白球を握りしめて、待っていた。思わぬ演出に、こみ上げてくるものがあった。「久しぶり過ぎて…。ずっと一緒にやってきた監督。ありがたかった」。球界屈指のセットアッパーと呼ばれた右腕に、全盛期の記憶がよみがえってきた。

最後の打者は、阪神中谷だ。カウント2-2からの5球目は左翼ポール際への特大ファウル。スタンドにどよめきが起こった。「全力勝負をしたいと思って、入った世界。本気で投げさせてくれた中谷くんにありがとうと言いたい」。続く6球目。捕手のサインに4度、首を横に振った。最後の球に選んだのは、フォークボール。「フォークに助けられてきた。信用しているボール。三振取るなら、これだと思った」。中谷のバットは空を切った。

再び森監督がベンチから出てくる。現役最後の登板は終わった。しかし、浅尾が描いたラストシーンには、続きがあった。「浅尾に代わりまして、ピッチャー岩瀬」。このアナウンスの再現を熱望していた。同じように現役引退を決めているベテラン左腕にバトンタッチ。「毎日のように、聞いていた。岩瀬さんにつなげて、うれしかった」。浅尾-岩瀬という鉄壁リレーに、ナゴヤドームが沸いた。球団史上初のリーグ連覇となった10、11年。この2人は他球団を圧倒し、反撃の機運を完璧に消した。その後、浅尾は右肩痛に苦しみ、完全復活はならなかった。この日の再現は、ひとつの時代が完全に終わったことを意味していた。

浅尾はファンに謝罪と感謝の気持ちを表した。「何が復活か分からないけど、待ってくれているファンに、来年もやるという決断ができなかったのは申し訳ない。でもお疲れさまと言ってもらえた。逆に、ありがとうと伝えたい」。栄光と苦難の12年間。最後に、浅尾はしっかりと右腕を振り切った。【田口真一郎】