ロッテ今岡真訪2軍監督(44)に就任1年目の今季を聞いた。現役時は阪神で03年首位打者と05年打点王に輝き、2度の優勝に貢献した一方で、不遇も味わった。現役時代の経験をもとにして、若き指揮官が抱く哲学を2回連載でお届けする。ファーム指導で浮き彫りになったのは「無言力」「1軍力」「管理力」だ。最初に“教えない将”の若手へのアプローチに迫る。

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本気でロッテを変える。今季から就任した今岡真訪2軍監督(44)が盟友の井口資仁監督とともに抱く決意だ。指揮1年目は118試合で59勝54敗5分けの3位。昨季、借金5の4位から躍進した。チーム打率はリーグ2位、同本塁打数は同1位だ。「今岡野球」って何ですか? そんな問いにしばし考え、反論した。

今岡 2軍監督の野球って、そんな「色」はいらない。選手を1軍に上げる、1軍につながっている野球をするのに「俺の野球」って何? やるのは1軍に行っても絶対にやらないといけないこと。極力、1軍と2軍で求められるもののギャップが出ないように。必要な打撃、必要な声やね。

1、2軍の連係がチーム強化の根幹にある。ファームの若手が1軍でも戸惑わずプレーできるか。いわば「1軍力」を鍛えているのだ。試合のなかでも、勝ちにつながる行動を追求。今岡が特にナインに伝えるのは、個々の技術以上にチームプレーの徹底だった。

◆チームバッティング

今岡 前提として勝とうとしないと教育できない。例えば走者が三塁にいて、内野手は1点やってもいい守備陣形で下がっているのにポップフライや空振り。こういうのは強烈に言う。「下がっているのに空振りしても何も生まれない。当ててゴロで1点やろ?」と。バント失敗した選手には次の日、点差に関係なく、絶対にバントのサインを出す。エンドランに失敗した選手も、次の機会で必ずサインを出す。ミスを怒ることはないけど、成功するまでサインを出し続ける。

◆チームボイス

今岡 極端に言えば「さあ、行こうぜ!」というありきたりな声はいらない。「チームボイスを出しなさい」と言っている。選手同士で、いいプレーをしたら、まず褒め合え、悪いプレーをしたらヤジり合え、と。コーチが言う前にね。それがチームプレー。ピリッとしたいい空気になる。

勝つための道を進み、攻守ともに、細かく突き詰めてきた。例えばシートノックだ。「タッチプレーが柔らかかったら、やり直しをさせる。必ず、強く『タッチ!』とやらないと」。時にはアウト1つが命取りになる。だからこそ、タッチの差も制すべく、細かいプレーをおろそかにしない。

ロッテ変革は「管理力」の強化にも表れている。今季から指導体系を一変。練習メニューから日常生活まで、すべてを主導するのはトレーニングコーチだという。練習負荷、体重計測、食事量…。日々、細かく選手の状態を把握する。「トレーニング」「休養」「食事」の3本柱を、いかに循環させるか。今岡は「トレーニングコーチから『体重が落ちました。体力的に弱っています』と報告が来たら、普段の特打や特守はなしにしましょう、としている」と説明。プロ野球界は打撃、投手など、技術部門のコーチの意見が優先されがちだが、ロッテは違う。現役時から筋力強化を重んじた井口の方針もあって、トレーニング部門を重視した強化を推し進めている。

象徴的な光景があった。あるときのビジター戦だ。新人安田ら若手が、5回で急に交代。トレーニングコーチが付き添い、ウエート室に向かう。プレーを途中で切り上げてまで徹底して取り組ませていた。

今岡 高卒1年目の選手に、そこまでしてウエートをさせるのは若いうちから意識づけをさせるということ。それくらい、我々はウエートを大事にしている。

合理的な理由もある。関東近郊でビジター戦を終えると拠点の埼玉・浦和までバスで帰る。渋滞なら4時間かかる。「帰ってから夜にウエートしろとか無理。それなら、遠征先でやればいい」。ユニークな操縦法で若手の体力強化を図る。

日常生活も整える。今岡が取り組んだのが「お風呂改革」だ。今年の新年早々、浦和の寮に一夜、寝泊まり。「そうしないと改善点が分からない」。気づいたことがあった。「朝、お風呂に入ろうと思ったらお湯が出ない。聞けば『朝は寮でお風呂に入れない』と」。練習前の朝、体を温めるために風呂に入る選手は多い。戦える環境を作った。

改革は、寮の食生活にも及ぶ。これまで休日は朝昼晩の食事なし。コンビニや外食で済ませる選手が多かったという。今岡は休日の食事の必要性を訴え、午後6時からの夕食を義務づけた。「寮生として当たり前のことができていないと感じた。寮生活は体を作る上で大事な時期。強く意識させている」。すべて井口に提案し、相談して決めた取り組みで、着々と新生マリーンズの礎を築く。

 

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1時間少々の今岡へのインタビューで、ボソッと言った言葉が脳裏に焼きつく。「邪魔しないことやね、コーチが」。グラウンドで選手に声を掛けず“教えない将”の本音に触れた気がした。いつも今岡の背中は伸びている。規律、礼節、志…。指導のあるべき姿を自戒しつつ、こう言う。

今岡 2軍は若手だけじゃなく中堅、ベテランもいる。誠実にモノを言うのが大事。例えば「気合を入れろ」と言うなら、気合を入れている自分でいないといけない。自分が吐く言葉は自分が鏡。自分が、いつ見られても絶対に凜(りん)としていること。「あの人に言われたら文句ない」と思われないといけない。だらしない、緊張感がない指導者であってはいけない。現役のときは自分のことばかり考えて角が立って、ある意味、生意気でした。人の言うことを聞かないタイプでした。だからこそ、いま、人にモノを言うときは自分を律しないといけない。毎日、そう思いながら過ごしています。(敬称略)(終わり)【酒井俊作】