ありがとう、原口-。阪神が劇的な勝利で同一カード3連敗を阻止した。「日本生命セ・パ交流戦」の日本ハム戦で、9回2死二、三塁から代打原口文仁捕手(27)が中前にサヨナラ打を放った。

大腸がんから1軍に復帰し、最高の形で甲子園のお立ち台に上がった。試合後には矢野燿大監督(50)が男泣き。満員のスタンドにも大きな感動を与えた。

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目の前にあるテレビカメラが涙でぼやけた。阪神矢野燿大監督(50)が試合後のインタビュー室で男泣きした。

9回2死から高山、北條がつないで最後は原口がサヨナラ打という筋書きのないドラマ。「昨季は2軍監督として苦しんだ高山、北條を見てきたが?」とマイクを向けられ、我慢できなかった。数秒間の沈黙の後、「はい…。うれしいです」。真っ赤な目に涙が盛り上がり、あふれ出た。

涙腺を刺激したのは梅野の勇気だった。7回に二塁打を放つと、北條の3球目に決死の三盗を敢行。捕手の悪送球を誘って同点のホームを踏んだ。「この展開で…サードに、まあリュウ(梅野)が走ったっていうね。まあ言いたいこといっぱい…。ちょっと、ごめん」。アグレッシブに次の塁を狙う。矢野イズムを体現するプレーに、こみ上げてくる感情を抑えきれなかった。

異例の会見中断もあった。振り返れば、振り返るほど選手たちの決死のプレーに心を揺さぶられた。「しゃべると、ちょっと待って…。ちょっとタイム。ガミ(二神広報)水、持ってきて」。そう言い残すと部屋を退室。数十秒後に囲み取材が再開された。

矢野監督は「初めてちゃう。自分では泣いたことないけど。勝って泣いたことないんだけど。(泣くときは)もう優勝とかそういうことかなと思っていたけど」と、しみじみと話した。決死の走塁。苦しんでいた男たちの意地。そして甲子園に帰還した男のサヨナラ打。信じられないストーリーのエンディングは矢野監督の男泣きだった。【桝井聡】