「みんな、ただいまー!」

阪神原口文仁捕手の明るい声が、お立ち台から響いた。甲子園の観客へ、全国の阪神ファンへ、そして自分と同じように困難に立ち向かう人へ-。

「僕の活躍がそういう力になるとすれば、本当に僕もこうやって生きて、野球をやれる意味があると思うので、これからさらに頑張っていきたいと思います」

大腸がん手術からリハビリを経て、1軍復帰した5戦目。ドラマでも描けないような歓喜のシーンだった。3-3の9回2死二、三塁、日本ハムの守護神・秋吉の3球目、外角のスライダーに代打原口が必死に食らいついた。「本当にセンターの前に落ちてくれ、という願いだけで走っていました」。センター前に弾むサヨナラの打球を見届けると、両腕を突き出し喜びを爆発させた。梅野に糸原に矢野監督、仲間たちに次々と抱きつかれた。「最高ですね、最高以外ないです」。復活のイメージを描いていた原口の想像を上回る、最高の結末だった。

チームメートがお膳立てしてくれた。ベンチで声援を送る裏で、7回にも次打者サークルに入るなど早くから代打の準備に集中した。9回は2死から高山、北條が懸命につないで原口に回した。「早い回から準備させてもらって、先輩たちもいる中で裏で準備していたので、本当にいろいろサポートしてくれる周りのメンバーにも、とても感謝の気持ちでいっぱいです」。感謝の気持ちを原動力に3連敗阻止の殊勲者になった。

待ちこがれていた1軍のお立ち台。ずっと温めてきたものがあった。「オフシーズンにファンの人にセリフを決めてもらったので、ちょっとやりたいと思います。いいですか? スリー、ツー、ワン、必死のグッチー!」。原口の笑顔に大声援で応える甲子園のファン。また何度も、この瞬間が見たい。【磯綾乃】