まだ終われない、終わらない。阪神北條史也内野手(25)が同点の8回、決勝2ランを放った。

負ければCS進出の可能性が消滅し、矢野阪神1年目のBクラスが確定した崖っぷち。新人木浪に遊撃を譲る背番号2が、男の意地でチームを救った。奇跡へ負けられない試合が続くが、わずかでも望みがある限り諦めない。

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負けられない思いが乗った打球は、赤と黄色が入り交じる左中間席に届いた。座席に当たってグラウンドにはね返った打球を目で追った北條は、二塁手前まで全力疾走。本塁打の判定が出ても勢いそのまま、本塁を駆け抜けて一塁側ベンチへ飛び込んだ。矢野監督や選手らとハイタッチを交わし、最後は熱投を続けた先発西と熱い抱擁で喜んだ。

北條 やり返すイメージでいきました。絶対、打ってやろうという気持ちで。

同点の8回1死二塁。広島2番手菊池保の初球、内角寄りの136キロシュートを振り抜いた。決勝の5号2ラン。「外野が前だったので、芯に当たったら超えていくかなと」。今季4打席無安打の相手にコースを広く使う特徴を頭に入れ、前回打ち取られた同じシュートを完璧に仕留めた。新人木浪に遊撃を譲る形で控えが多く、この日も6回の代打から途中出場。限られた打席で男の意地を見せた。打てば先発西に9勝目の権利が付く場面。「ここしかない」と思いを乗せた。

甲子園の一塁側ベンチに北條が刻んだ“足跡”があった。いつも北條が座る最前列のシートは、立ち上がって激しく喜ぶ際に登るスパイクの跡で破れ、穴だらけになっていた。試合で活躍する選手を横目に「声を出すしか(貢献できることが)ないんで」と漏らしたこともある。だが、決して腐らなかった。控えのベンチでも仲間を鼓舞しつつ出番に備えて前のめりに。そんなひたむきさを野球の神様も見ていたのだろう。

指揮官は木浪に代わって北條を代打起用にしたことについて「そういう(ガッツを出す)選手がこういう結果を出してくれるのは、何か変わる要素になりえると思った」とうなずいた。金本前監督らが何度も痛い目に遭ってきた広島戦の5年ぶり勝ち越しも決めた。逆転CS進出へ、残り6試合の全勝が最低条件で迎えた一戦。試合前の円陣ではナインから「トーナメントと思って」という言葉も出た。北條も「負けたら終わりなので。そういう気持ちしかないです」と力を込めた。奇跡の逆転CS進出へ、崖っぷちの戦いは続く。残り5試合も一戦必勝。まだ、シーズンを終わらせたくはない。【奥田隼人】

▽阪神浜中打撃コーチ(北條につて)「インサイドを狙い打ちだったと思います。見事。(直前西が送りバントを失敗し)ミスをカバーしてくれた一打になった」