各地のバッティングセンターを巡る第2弾は、水戸市の「駅南(えきなん)バッティングセンター」です。本塁打パネルに的中すると現金1000円など、賞品が懸かったパネルを14枚設置して、打者の欲望をくすぐる仕掛けに、52歳の記者が挑みます。エンゼルス大谷翔平(25)の最高球速と同じ165キロの打席にも立ちました。

特急ひたち号に乗って、JR水戸駅へ。駅南中央通りを5分ほど歩き、右に曲がって市役所方向にさらに数分。全国の野球人が注目する「駅南バッティングセンター」に到着した。写真を見てほしい。マシン場とネットにある14枚のパネルを直撃すると効果音が流れ、賞品が贈られる。「LH」「RH」はヒットでコイン1枚、「2BH」は二塁打で2枚、「3BH」は三塁打で3枚。1ゲーム300円の専用コインが贈られる。「ア」「ウ」「ト」にも当たればジュースかアイスクリーム。これじゃあ、ノーアウトだ!!

2枚の「HOMERUN」は現金1000円。「バッセン界」では珍しい現金プレゼントだ。サイクル安打達成にはコイン10枚の大盤振る舞いだ。

1977年(昭52)の開店当時、パネルは本塁打の1枚だけだったが、「どうせなら」とつけられる場所に次々掲げた。挑戦者が続々と現れ、25年前に1カ月で356本、19年前に1日で76本、17年前に年間1700本の本塁打記録が樹立された。「賞金は1日10本まで」などの制限はあったが、年間70万円を稼ぐ強打者もいて、今は「1日5本まで」とした。その5本も17年前に1ゲームで達成した人がいる。

店主の酒井功さん(45)は「アルバイト感覚で、稼ぎにやってくる学生さんもいました」と振り返る。気前が良すぎないか心配してしまうが「ホームラン1000円じゃないと、来てくれなくなると思うんです。楽しみがなくなるじゃないですか」と揺るぎない。

ならば、楽しもう。コインを買って、4番マシンを球速90キロにセットした。実は師走を迎え、体調を崩し3日間寝込んだ際、3冠王・落合博満氏の打撃技術書を読み直した。「深めにトップを作り、グリップエンドで打つ感覚で、センター返し」。「オレ流」の教えを守ればパネルに向かうはず。おっ、ワンバウンドが三塁打に当たった! が、効果音はない。あっ、白い縁に当たっても、真ん中に当たらないと無効だ。

3ゲームを終え収穫はない。球速を100キロに上げた。本塁打を打つには「ボールの中心から5ミリ下をたたく」という王貞治氏の逸話を思い出す。オレ流にビッグワンをミックスすると、52歳は見事にバランスを崩した。第4ゲームの16球目はこの日通算76球目。つまずくように泳いでしまい、バットの先端でこすった打球が右中間にフワリ。えっ、当たった…。効果音とともに「受付までどうぞ」の声。スタッフは結果ごとに違う効果音を聞き分け、瞬時にアナウンスするシステムだ。「はい、僕ですよ~」と右手を上げた。平日午後2時すぎの水戸駅南で、バットを握っているのは私だけだったが。

ポチ袋に入った賞金を受け取り、また打席に。今度は会心の一撃でもらいたかったが、9ゲーム180球で終えた。7ゲーム2100円のところを、100円割引きなので、投じたのは2600円。取材経費に認められないから、賞金1000円はありがたい。

得した気分は賞金だけでなく、球速を変えても、乱れのない制球で無駄なく打てたことにもあった。耐久性のあるマシン用の軟式球を常に400個循環させているが、使い減りすると制球が乱れるため、2カ月に1度は交換している。使用済みは中学の野球部などに、張り替えたネットとともに寄付する。酒井さんは「野球人口が増えて欲しいですね」。野球の華であり、夢である「本塁打」を狙える場所を守り続ける理由だった。【久我悟】

◆駅南(えきなん)バッティングセンター 6つの打撃レーンのほか、9分割したボードを投球で倒すストラックアウト(300円)もあり、パーフェクトを達成で賞金5000円。球速測定もできる。営業時間は3~11月が午前10時~午後10時、12~2月が午前11時から午後8時。住所は茨城県水戸市白梅1の2の31、【電話】029・225・8728。