昨季限りで現役を引退し、日本ハムのスペシャルアドバイザー(SA)に就任した田中賢介氏(38)が、日刊スポーツで1年間コラムを執筆します。第1回のテーマは「キャンプ」。初めて他球団の練習を視察し、感じたことを記します。日本ハムとの違いや、ソフトバンクの強さの秘密、そして今季期待できそうな日本ハムの選手とは…。

現役生活を終えて初めて迎える2月。セ・リーグを中心に、9球団のキャンプをまわらせてもらいました。練習の雰囲気など、チームによって違いもありますが、やっぱり強い球団は、それだけの理由がある練習をしているんだなと感じました。

たとえば、体力練習と技術練習の結びつけ方が上手。「このトレーニングはこの技術につながっている」と、しっかり意図を感じるメニューが多かったです。またソフトバンクでいえば、ベテラン選手も若手と一緒にフルメニューをこなしている。これはいいなと思いましたね。

日本ハムもそうですが、通常ベテランになれば、自主練習、任される時間が長くなる。でも個人で練習をしていると、だんだん自分の限界値というのが分かってくるんですよね。そこでセーブをしがちになる。でもフルメニューをこなすにはセーブなんてできないし、クリアできる体力があれば、レギュラーとして長くやれる。置いていかれないように努力もするでしょう。チームの強さにつながっていると思います。

僕が現役のときには「自分の限界を超える練習」を、キャンプ中2、3度はやるようにしていました。たとえば、今日は1000回振る…と決めて、必ずこなす。没頭するまで振るとか、没頭するまで守る、とか。ある意味で護摩行と同じ理論。メンタルを壊すというか、リミットを外す作業ですね。

「いい練習」にするには、人に見られることも大事だと思っています。ひとり黙々と取り組む練習も必要ですが、多くの人に見られている練習では、モチベーションも違います。ですから、人を呼べる施設、お客さんが集まるキャンプという要素も大切だと考えます。ソフトバンクや巨人は、キャンプ地が観光スポットのように、エンターテインメント的な要素のある、1日中遊べる場所になっていました。子どもが遊べるアトラクションがあり、イメージとしては小さな楽天生命パーク(観覧車などが特徴)。ファンの方も楽しいし、選手も成長できる。相乗効果が期待できます。

さて、経験上、キャンプといえば1つ言えることがあります。そのシーズンがいいものになるかどうかは、実は初日の練習で分かるんですよ。初日のスイングを見たら、「あぁこの選手は活躍するな」とわかる。それは自分にも言えて、どんなにオフにトレーニングを積んできても、初日の練習で「ん?」という感覚になるときがあります。そういう年は、なんとか粘って粘って、食らいついていくシーズンになりますね。僕だけじゃなく、みんな個々に感じているんじゃないかな。きっとコーチのみなさんも、初日の動きで各選手の状態をつかんでいるんだと思います。僕が今年の初日の練習を見て、いいなと思った選手? …それはずばり「鶴岡選手」(笑い)。期待して見ていてください。

◆田中賢介(たなか・けんすけ)1981年(昭56)5月20日生まれ、福岡県出身。東福岡から99年ドラフト2位で日本ハム入団。12年オフに米ジャイアンツに移籍し、14年はレンジャーズのマイナー所属、15年日本ハム復帰。NPB通算18年で1499安打、48本塁打、486打点、打率2割8分2厘。シーズン最高打率3割3分5厘(10年)打撃10傑入り3度(10年2位、12年5位、15年9位)。179犠打、203盗塁と俊足巧打の内野手だった。メジャー成績を含めると1507安打。現役時代は176センチ、78キロ、右投げ左打ち。

◆護摩行 インド伝来で密教最高の修行法。轟々(ごうごう)と燃え上がる炎の前で、全身全霊を込めて不動真言を唱え祈りをささげる。すべての煩悩を焼き尽くすという意味がある。野球界では金本知憲氏や新井貴浩氏らが、行っていたことで有名。今オフも広島堂林などが臨んだ。