今春、新たに硬式球を追う夢がかなった女子高生たちがいる。花巻東(岩手)女子硬式野球部1期生の13人。その中の6人に野球の楽しさを教えてきたのが、小学生チーム「絆ガールズ」と中高生の「絆ヴィーナス」を持つ、絆女子野球クラブを創設した佐々木幸浩代表(54)だ。

岩手初となる高校部活動の受け皿誕生に、佐々木氏は「勝利も大切なんですが、楽しんだり、あいさつだったり、人を敬うことだったり、わが娘のように接してきたつもりです。積み上げてきたものが、つぼみから1つ花が咲いたかなと思う」と笑顔があふれた。

11年3月の東日本大震災後、岩手・陸前高田市で母を亡くした女の子の気持ちを前向きにしたい思いがきっかけで、当時のスポーツ少年団指導を辞め、女子野球チームを作った。グラウンドも、道具も失った状況に「野球好き、集まれ」が合言葉だった。登校拒否だった子が、インターネットでチームの存在を知ってみずから訪れ、野球を通じて前を向き、専門学校卒業後に社会に巣立ったこともある。

花巻東で初代主将となった河野瑠生捕手(2年)も、中学時代に野球を辞めようと思ったことがあった。人との交流に苦労し、長く練習を休んだ。佐々木氏は「他のチームの子とも交流出来るようになって、ニコニコしながら自己紹介したり、野球で仲間を作れることを証明してくれたのも瑠生でした」。河野も「私のストライキにも『戻ったら一緒にやろう』と優しく手を差し伸べてくれた代表に感謝しています。日本一になって恩返ししたい」。河野の呼び掛けに、宮城からも3選手が同校に集った。

2010年に女子プロ野球が創設。社会人、大学、高校の女子野球も確立されつつはあるが、まだまだ十分ではない。佐々木氏も「女子高校野球が、まずは各県1校以上。将来は、男子と同じように都道府県大会が開催されるくらい野球が好きな女の子が増えるように、底辺拡大を頑張っていきたい」。エンゼルス大谷翔平(25)マリナーズ菊池雄星(28)ロッテ佐々木朗希(18)と岩手からスターが誕生。「次は女子でも良いですよね」。さらなる夢を追い続ける。【鎌田直秀】