不定期連載の「開幕と私」は元オリックス監督の大石大二郎氏(61)です。4度の盗塁王に輝くなど、3拍子そろった“大ちゃん”にとって、1990年のダイエーとの開幕戦はプロ野球人生の分岐点になりました。【取材・構成=寺尾博和編集委員】

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近鉄一筋17年。1990年の大石は、現役生活でキャリアハイの打率3割1分4厘(リーグ2位)、20本塁打の成績を残した。その年の田淵ダイエーとの開幕戦で手応えをつかんだ。

大石 オープニングゲームはいつも足が震えていました。寒さもあったけど緊張していたからでしょうね。あの年は自分でも現役としてやっていけるかどうか切羽詰まっていた。追い込まれた気持ちで臨んだ開幕だったので、2本のホームランを打ったことで「いける」と思ったのです。

90年4月8日のダイエー戦(藤井寺)で「1番二塁」で出場した大石は、藤本修から1号、矢野から2号本塁打を放った。

大石 2年前の88年オフに右肩手術をして、89年は優勝したものの、自身は納得のいく成績(2割7分7厘)を挙げられなかった。だから余計に90年の開幕は意識した。ダメだったらユニホームを脱がなくてはいけないかもしれないと、ぼんやりと考えていました。なにかを変えないといけないと思ったのでフォーム改造にも取り組みました。

それまで左足を高く上げていた打撃だったが、この年からスリ足で打つようになった。

大石 それが功を奏してうまくタイミングがとれるようになりました。開幕投手は亜大の後輩阿波野でしたから、なにか声を掛けたと思いますがはっきり覚えていません。それだけ自分のことで必死だったんだろうと思います。

ロッテは12年ぶりの現場復帰になった金田正一が指揮を執り、ダイエー新監督は田淵幸一だ。連覇を狙った近鉄は仰木彬で、スター監督がそろったパ・リーグ時代の幕開けだった。

大石 うちも新人で野茂が入ってきて盛り上がっていた。打ち合いになった試合はブライアントが決勝ホームランを打って9対8の派手な逆転勝ちです。このシーズンのチームは3位に終わりましたが、個人的には自信になった年でしたね。(敬称略)