「当店は2021年1月11日をもちまして閉店させて頂くこととなりました」。ツイッターにこんなつぶやきが回ってきた。アカウント主はオークスブックセンター東京ドームシティ店。巨人、プロレス、競馬など特定のジャンルに振り切った名物書店だ。巨人担当になる前の昨年11月、東京ドームの練習初取材時に立ち寄った。普通の書店とは雰囲気が違った。数十年前の高校野球の記録をまとめた雑誌など、コアな野球本やプロレス本が前面に押し出されていて「すごい店だな」と感じた記憶がよみがえってきた。

そんな名物店が閉店する。コロナの影響でイベントが開催されず、売り上げが半減し、経営が成り立たなくなった。田上嘉志店長(42)は「こんな店、2度と巡り合えない。寂しいでは言い表せないけど寂しい」とつぶやいた。普通とは全く違う店だった。2年半前に異動してきた田上店長にとって、この期間は15年の書店員人生で最も刺激的な時間だった。一般的な店は月刊誌、週刊誌など決まった時期に商品が入荷され、販売するルーティンワークが基本。しかしこの店は東京ドームで開催される野球やプロレス、嵐をはじめとするアイドルのコンサートなど、イベントに合わせて都度、商品を入れ替える。まるでお祭りのような目まぐるしい日々だった。

ファンの期待に応え続けた。東京ドームのおひざもととして「巨人関連本は常に切らしちゃいけないというプライドを持ってました」と胸を張る。実際に写真集やイヤーブックは飛ぶように売れた。ファン感謝デーはイヤーブックや記念グッズなど1年で一番の書き入れ時だった。JR水道橋駅から歩道橋を渡って東京ドームへの「いつも」の道のり。当たり前にあった「文系野球の聖地」が前身の山下書店時代から続く56年の歴史に幕を下ろす。【小早川宗一郎】