3年目矢野阪神が貯金10で首位を快走している。そのスパイスとなっているのが、機動力のパワーアップだ。積極的に次の塁を狙う高い走塁意識と進化した走塁技術が外国人にも浸透し、リーグNO・1の得点力を生んでいる。一塁コーチを務める筒井壮外野守備走塁兼分析担当コーチ(46)と、三塁コーチを務める藤本敦士内野守備走塁コーチ(43)の話から、快進撃の舞台裏に迫った。【取材・構成=林亮佑】

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阪神首位の原動力は投打ガッチリの安定した戦いだ。特に攻撃陣で目立つのはリーグトップの得点力。そのスパイスは、矢野監督3年目でさらにパワーアップした機動力だ。藤本コーチは「意識の持ち方のレベルが上がって、当たり前のレベルが上がってきている。次の塁を狙う準備力がすごく高まった」と明かす。

4日の中日戦(京セラドーム大阪)で同点の6回2死一、二塁の場面。陽川の左前打で二塁走者のマルテが一気に本塁を突いた。際どいタイミングのタッチプレーに、中日からリクエストが要求されたが覆らず、勝ち越しのホームインで勝利をもたらした。藤本コーチはこの場面を今季ここまでのベスト走塁に挙げた。

藤本コーチ (マルテに)もうちょっとリードを広げてくれというジェスチャーをしても、ちょっと小さいかなと思った。そのときに一塁走者のサンズがマルテに(ジェスチャーでリードを)広げろと言ってくれた。その半歩を広げてくれてホームにかえれた。すごくありがたかった。

外国人でも高い走塁意識でチームに貢献する象徴的なシーンだった。今季は走者二塁で打者が単打を放ったケースは15度あるが、9度生還してまだ本塁憤死がない。9回中、8回は異なる選手が二塁からホームイン。個々がリードの幅を広げたり、1歩目のスタートを早く切るなど工夫を重ね、積極的に次の塁を狙って得点に結びつけている。

盗塁への積極性もさらに高まっている。盗塁数は矢野監督が就任した19年から2年連続リーグトップ。今季もここまで1位の17盗塁で、昨季に続き成功者数も最多だ。象徴的だったのは10日のDeNA戦(横浜)。9回に平田から熊谷が二盗、池谷から佐藤輝、梅野、中野が二盗を決め、チーム35年ぶりの1イニング4盗塁を決めた。池谷からの盗塁はいずれも2球以内。筒井コーチは「チームの決めごとをみんなが実行した。それも早いタイミング、球数の中で盗塁を決めた」。コーチやスコアラーの分析を選手が生かしている。

盗塁で今季特にこだわっているのは成功率だ。筒井コーチは「企図数も大事だけど、行けばセーフになる意識で取り組んでほしい」と全員に呼びかけシーズンに入った。ナインも投手のクセや特徴の研究により力を入れている。ここまで盗塁を18回企図し、失敗は1度だけ。全員で共有する走塁への高い意識が機動力を高め、好調を支えている。