ヤクルト中村悠平捕手(31)の変化が、高津再生工場を支えた。今季返り咲いた正捕手のリードが、投手陣の好投を引き出した。中村はこれまでの自分を「遠く低く。大元のセオリーは必ずある。でもそこに固執し過ぎた」と振り返る。

2月のキャンプで、古田敦也臨時コーチの指導で新たな境地に達した。たとえば直球とフォークが軸となる投手の配球は、偏る傾向があった。「他にカーブもスライダーもある。それを組み合わせることで、投手がもっと生きたり、幅が広がった」。10月10日の阪神戦。2点リードの9回2死一、三塁、打者はマルテとピンチを迎えた。長打を許さないためには、外角低めが基本。守護神マクガフはこれまで直球とスプリットを中心に組み立ててきた。カウント2-2で、勝負球として、内角スライダーを要求。見逃し三振で仕留めた。「今までだったら発想もつかなかった」と象徴的な一例を挙げた。

すべての根源は古田氏の「捕手で勝つ」の教え。臨時コーチ最終日のミーティング後、帰りがけの古田氏からただ1人呼び出された。部屋からエレベーターまでの短い時間。「失敗を恐れず、いろんなことを試して、お前がこのチームを勝たせたと言えるように頑張れよ」と声をかけられ、火が付いた。元々感情を表に出さないタイプ。今季はより一層結果にこだわり、ガッツポーズも自然と出るようになった。ズボンの裾を絞り、個性を出すように。「遊び心も自分のリードにも必要なんじゃないかと。あとは自分がどうしたいか。そういうところから始まった」と笑った。

自分がなんとかする。その言葉が奮い立たせてくれた。「自分にとっては魔法の合言葉」と目尻を下げる。沖縄でID野球の申し子から注入された“覚悟”を、東京で実践し、守備を固めた。【湯本勝大】