現状維持は事実上の後退を意味する。常に考え続ける里崎智也氏(45)の生き方は、まるで泳いでいないと死んでしまうマグロやカツオのようだ。いつだって日本球界の問題点、改善点に思いをはせる里崎氏が、新しい指標をここに提案する。

里崎氏 ずっと考えてきて、今、ひらめいたんですよ。新QS! です。6回3自責点がQS(クオリティー・スタート)として先発投手のその試合での成否の目安とされてきました。でも、それはメジャーが提唱した指標ですよね。メジャーは中4日、100球をベースに考えられた数字です。でも、日本は中4日よりも中6日が主流として定着しています。中4日と、中6日じゃ、QSを考えるベースがそもそも違うじゃないですか。それなら、日本のプロ野球の現状に合わせて考えるべきで、となると中6日空けて投げるなら、6回じゃなくてせめて7回3自責点というのが僕の考え方の根底にあります。

プロ野球は中6日が主流。先発投手は1週間に1回先発する。与えられた調整期間を考えれば、6回3自責点よりも、最低でも7回は投げるべきという考えも理解できる。巨人の投手部門を預かる桑田コーチは9回135球での完投を目指すという考えを持ち、ソフトバンクの工藤前監督も先発投手は最終的には完投を目指すのが理想としてきた。

中日の立浪新監督は就任後に「最低でも7回は投げてほしい」と発言している。先発投手の投球回に関して具体的に最低7回と言及しているのは注目すべき点だ。中日投手陣の今季防御率は両リーグトップの3・22。救援防御率も2・92で両リーグでは楽天2・75に次ぐ。その投手陣に対し、立浪監督が求める先発陣の最低でも7回という方針は、さらにレベルを上げようという意図が感じられる。

里崎氏の指摘に沿ってデータを集めてみると、両リーグで先発登板を20回以上した投手の中で、QS(6回3自責点以下は省略)2桁達成は33人。それが新QS(7回3自責点以下は省略)基準でみると一気に半減の15人。中盤から終盤にかけての1イニングの違いによって、質のコントラストがくっきりと浮かび上がってくる。

オリックス山本はQS率が88・5%、さらに新QSでも76・9%という非常に高いレベルにある。ソフトバンクのマルティネスはQS率95・2%は抜群の数字として光るものの、新QSとなると57・1%と大幅に数字が落ちている。

現代野球は分業制という言葉が定着して久しい。しかし、そのまま進化を望まなくなれば、実質的にプロ野球は静かに退化への道を進んでいく。6回3自責点というバロメーターがひとつの目安となっている今、里崎氏はその先の球界を見定めようとするから、シンプルに、そして熱く語る。

里崎氏 僕は日本人のあまり良くないところとして、アメリカのものに対してはなんでもありがたがって手本にしてしまう傾向があると思うんです。確かに、メジャーを見ていると、進んでいるなと感じるものもありますけど、そうじゃないものもあるのは確かなんです。そのひとつがQSじゃないかなって、そこにはずっと疑問を感じていたんです。でも、批判するだけじゃだめなんで、自分としても何か新しいものを見つけたいなと考えてきました。新QSは、日本のプロ野球事情にあってますし、それを指標にすることで、先発は6回じゃなく、もっと長いイニングを目指すようになれば、プロ野球のレベルは上がると思うんです。全部が先発完投を目指す必要はないんですが、オリックス山本のように、今が旬のピッチャーにはその能力が備わっているのは一目瞭然ですよ。そういうピッチャーが両リーグに何人かいて、若手がそういう人を手本にして1イニングでも長くマウンドを守る意識が高まればいいなと。新QSに込めたものは、そういう思いなんです。

まず、新QSを掲げ、その背景を今季のデータから分析した。それでは、新QSがチームにもたらすものについて、具体的に解説していく。

※明日につづく