野球漫画「ドカベン」「あぶさん」などで人気を集めた漫画家の水島新司さんが10日、肺炎のため東京都内の病院で死去した。82歳だった。

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あの日、僕たちは水島先生を待ち焦がれていた。1999年2月20日、高知・春野キャンプを取材中の西武担当記者陣だ。松坂大輔の1年目。各記者とも怪物ルーキーのネタを求められ、そろそろネタ切れだったところに、水島先生がやってきた。西武の開幕カードはダイエーだ。水島ワールドでは、松坂はドカベン山田とバッテリーを組み、あぶさん景浦と対するはず。「夢構想」で今日はしのげるぞ!

春野球場を訪れた水島先生は、力強くプランを話し始めた。「ドカベン」で松坂は開幕投手となり初白星を挙げると宣言。登板前夜、山田の実家で作戦会議するエピソード付きだった。ただし「あぶさん」では西口文也を先発させた。「ベンチの松坂は景浦のすごさを知ることになります」。ああ、水島先生の中で、山田も景浦も生きている。「水島新司」で育った僕には、泣けるほど共感できる予告だった。

当時の西武の2番打者、大友進は嘆いていた。「1番(松井)稼頭央がヒットで、僕と3番(高木)大成さんが三振で、山田が逆転2ラン。パターンですよね」。せっかく、山田の西武入りで、漫画への登場が増えたが、三振では1コマで終わってしまう。ただし、その大友に双子の弟猛さんがいることを、水島先生は見逃さない。「あぶさん」の中で、景浦の行きつけ「大虎」に大友が訪ねてくるのだが、実はそっくりな猛さんだったというエピソードが描かれた。「結局、出たのは弟ですからね」。大友は嘆きながら、うれしそうだった。

私的なことで申し訳ないのだが、野球が好きな私の長男が、10歳の時に大病で7カ月間入院した。毎日数冊ずつ古ぼけた「ドカベン」を届けると、夢中で読んだ。退院後、バットを振り、グラウンドを駆け抜けるまで回復した。時代も世代も超えて、野球人を元気にする。水島新司がバイブルだ。【久我悟】