水島新司さんが描いた漫画たちは、野球界に大きな功績を残した。パ・リーグの盛り上げ、人気アップには多大な貢献があった。

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自宅の引き出しに大切にしまっている1枚の名刺がある。ダイエーの初代オーナーだった中内いさお氏から苦笑いで渡されたものだ。すべて英語表記。本業で持ち歩いていたものとは別に製作。本社ダイエーの肩書、球団の肩書がそれぞれ表に記されている。

中内さんは裏側を差し出して渡してくれた。そこには水島新司氏が描いたつえをつくホークスのユニホーム姿の中内いさおオーナーの漫画が描かれていた。そして英語でこうある。

The Owner wishes to see the Victory before his 100 years birthday.(オーナーは100歳までに優勝が見たい)

Please introduce good baseball players to me!!(いい野球選手を紹介して)

初優勝も遠く苦難が続く日々をホークス党の水島さんとともにちゃめっ気たっぷりの名刺を作ったのだ。低迷するチーム、そして中内オーナーのよき「指南役」でもあった水島さんが亡くなった。ソフトバンクとなって「常勝」に成長したホークスをいつまでも愛した人だったが、福岡移転の低迷期こそ、水島さんはホークスを応援していたように思う。球場では選手たちに声をかけ、試合中のライブペインティングも引き受けた。

初優勝した後だったか。福岡を訪れた水島さんは真顔でこう話しかけてきた。「長い間、パ・リーグや野球界の漫画を書き続けてきた。僕はグラウンドでは賞は取れないけれども、球界のために頑張ってきた自負はある。だからさ、ねえ、俺に野球殿堂入りさせてくれないかな。漫画家が殿堂入りしたらいけないことはないんじゃないの」。そう言って豪快に笑い飛ばしていた顔が忘れられない。【佐竹英治】