阪神がウル虎逆転勝ちで、2連勝を飾った。4回に三重殺を食らったが、試合の主導権は渡さず、適時打0本ながら3点を奪った。三重殺を喫しながら勝ったのは、大阪タイガース時代の57年以来、65年ぶり。開幕から歴史的低迷に苦しむ猛虎が、流れを変える1勝をつかんだ。

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天国のノムさんも苦笑いでつぶやいているだろう。勝ちに不思議の勝ちあり、と。適時打ゼロで3点。まさかの三重殺を食らいながらも、白星を手にした。

目を疑うようなシーンだった。1点リードで迎えた4回の攻撃は無死一、二塁の大チャンス。一気に突き放したい場面だ。高山がうまくとらえたライナーは運悪く一塁ビシエドのミットへ。一塁走者の山本は戻れず併殺…。甲子園の歓声は悲鳴と変わった。

ここから、さらなる“悲劇”が起きた。二塁走者の糸井がチェンジと勘違いし、とぼとぼと一塁側ベンチ方向に歩いていた。気づいたビシエドから転送され、マウンド後方にいた糸井は大慌て。通常ではあり得ない本塁側からのスライディングで帰塁したが間に合わない。たった6秒でアウトカウントが3つ飛んでいった。

矢野監督はリクエストしたが判定は覆らない。球審に向け、両手で四角を作る表情には失意がにじんだ。

「本当に恥ずかしいプレーだし、あってはならないプレーやと思う。流れがあるんでね、俺もやだなと思って見ていた」

リードしているのに漂う絶望感。誰よりも矢野監督が感じていた。

それでも勝てるのが野球だ。2回の同点シーンは高山の遊ゴロを相手が失策したもの。3回の勝ち越し点は敵失で作ったチャンスで糸原の二塁ゴロ。5回の追加点も糸原の遊ゴロ。野手陣の粘りが光った。

大山が欠場し、中野を初めて3番に置く新オーダー。転がして、転がして、適時打なしで3点を奪った。「苦しいメンバーの状態になってますけど、その中で勇輝がよく粘ってくれて。きれいな点の取り方じゃないけど、逆にこういう取り方が今まで少なかった。健斗(糸原)が2打点を挙げてくれた。ある意味、いい攻撃ができたかなと」。指揮官は苦しい中でも泥臭くホームを目指した野手陣をたたえた。

阪神が三重殺を食らったのは野村克也監督だった99年以来。三重殺されながらも勝てたのは、大阪タイガース時代までさかのぼり、球団65年ぶりの珍事だ。開幕から歴史的な屈辱にまみれた1カ月。散々苦しんできた分、こんな日もあっていい。【柏原誠】

▼阪神が三重殺を喫したのは、球団史上11度目。99年5月27日中日戦での新庄剛志の三塁ゴロ以来、23年ぶり。三重殺を食らったチームの白星は、21年8月14日に楽天が西武に勝って以来。阪神では、57年7月24日の広島戦以来65年ぶり。この試合では6回に石垣一夫の左直が三重殺となったが、田宮謙次郎が満塁本塁打を放つなど15-1で大勝。三重殺のショックを吹き飛ばした。

▼57年の阪神 4月終了時点で15勝8敗1分け、勝率6割5分2厘で首位を快走していた。ところが5月末から6月上旬にかけて、チーム内で流感が大流行。一時はベンチ入りする選手が、高校野球並みの15人前後まで激減する事態に陥った。それでも8月まで巨人とつばぜり合いを展開する。セ打率ベスト10に田宮謙次郎が3割8厘で2位、吉田義男が2割9分7厘で3位と健闘し、エース大崎三男が20勝、渡辺省三17勝と投手陣も踏ん張った。最後は優勝の巨人とわずか1ゲーム差の2位。藤村富美男監督が退任し現役選手へと復帰し、田中義雄監督が就任した。同年暮れには、立大の長嶋茂雄が巨人に入団した。

▼矢野監督が就任した19年以降、阪神は試合中止の次戦で12勝6敗1分け、勝率6割6分7厘の好成績だ。今季は4月7日のDeNA戦が新型コロナウイルスの影響で中止となり、次の8日広島戦に引き分けていた。好相性は復活なるか。

 

○…岩崎が落ち着いたマウンドさばきで3セーブ目を挙げた。9回1死後、京田に左前打を許したが代打平田を遊直に片づけた。岡林も力勝負で二ゴロに仕留め、試合を締めた。「勝つことができてよかったです」とおなじみのセリフ。3月29日の広島戦(マツダスタジアム)から8試合連続無失点に延ばし、防御率は1・08まで下げた。

○…左脚を負傷した大山は今季初めて欠場したが、大事には至らなそうだ。試合前はフリー打撃で快打を放つなど状態は良好そう。走塁練習で負荷をチェックし、明るい表情も見せた。矢野監督は試合後「ちょっと足の状態がよくなかったけど、代打は考えていた」と明かした。24日のヤクルト戦(神宮)で走塁の際に左脚を痛め、中止になった26日も欠場予定だった。

〇…運を呼ぶウル虎の「春」だ。この中日3連戦は、夏の人気シリーズ「ウル虎の夏2022」で着用するサードユニホームを先行で披露するカード。今季は節目となる同イベント10シーズン目で、過去9年の歴代ウル虎ユニホームを組み合わせた。実は、春のお披露目シリーズはここ4年連続で勝ち越してきた(20年はお披露目シリーズなし)。本番よりも強い春のラッキーシリーズとして認知されており、ファンの期待も高まっていた。

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