連続写真でフォームをひもとく「解体新書」。今回は、若手投手の活躍が光る巨人の大勢投手(22)と赤星優志投手(22)を日刊スポーツ評論家の西本聖氏(65)がチェックしました。ここまで抑えとして11セーブを挙げている大勢と、先発として2勝(1敗)をマークしている赤星。両大卒ルーキーの投球フォームを比較しながら分析しました。

※()数字は大勢、<>数字は赤星のフォーム写真の番号

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巨人が首位を走る要因の1つに、若手投手の活躍が挙げられる。今回はルーキーながら「抑え」の大役を務めているドラフト1位の大勢と、小柄ながら先発で頑張っているドラフト3位の赤星の投球フォームを取り上げてみよう。スカウトの眼力も大事だが、それぞれの特徴を生かし、「適材適所」に起用した首脳陣の用兵も見事だといえる。

まず「抑え」として適性を見せている大勢だが、投球フォームそのものは決して“みんなのお手本”にはならない。この連続写真では分かりづらいが、セットポジションの(1)から左足を上げる(2)で、右のかかとを浮かせてから投げる「ヒールアップ」をしている。一般的には、投げる前につま先立ちになるのだから安定感はなくなりやすく、上半身も投げる方向に突っ込みやすくなる。

ただ、(3)の右膝に注目してほしい。投げ急ぐことなく、頭が右膝の上に位置している。ヒールアップすることにより、足踏みをするようにして右膝に力をためている。言葉にすると簡単そうだが、意外と難しい。このように使えれば、ヒールアップは武器になる。

ここからも独特だ。(4)→(6)にかけて、上半身が三塁側ベンチ方向に傾き、右肘も背中側につり上げるように入っている。(7)では、ボールを持つ手の上がりが浅いまま、投げにいってしまっている。オーバーハンドの投手なら「悪いフォーム」。しかし大勢はサイドハンドに近いスリークオーター。ここから無理やり上から投げようとすれば、肩肘を壊してしまうし、トップが決まらない状態から投げるから、制球も乱れる。

しかし、サイド気味に腕を振ることによってカバーできている。サイド気味に振ることで、腕が振り遅れる時間を短縮。オーバーハンドならボールがすっぽ抜けてしまうが、サイド気味にすることで、球が浮かないように我慢させている。

一方の赤星は、みんなが“お手本”にしやすいフォームだ。セットポジションの<1>からトップの<7>まで下半身に力感がありながら、上半身には無駄な力が入っていない。右腕に力が入らないように脱力させると、ボールの重さも加わって肘から上がりやすくなる。ここがテークバックの難しいところ。しかし、赤星は<4>から<7>にかけてボールを持つ手から上げているし、胸も<5>から<7>にかけて、早めに張れている。

このように使えると、背中側に肘が入り過ぎず、腕の振り遅れもなくなる。だから変に力む必要もなくなる。<8>からフィニッシュまで頭の位置と顔の向きもブレていない。新人離れした制球力の源になっている。

力感を感じさせない赤星とパワフルな大勢の違いはリリースする瞬間((9)<9>)に顕著に出ている。ボールの上を指先で抑えるようにリリースする赤星に対し、大勢はボールを力で抑え込むようにリリースしている。

そしてリリースポイントも違う。同じく(9)と<9>を比べると一目瞭然だが、大勢はボールを前で離している。これはサイド気味に投げる利点。オーバーハンドでありながら制球力重視の赤星と、サイド気味でありながら球威で抑え込む大勢の特徴といっていい。

インタビューなどを聞いていても、大勢は気持ちが強そうで、赤星は冷静なタイプのように思える。この点も、「抑え」と「先発」の適材適所を見極めた起用だと思う。

ここで2人の今後に向けて課題を指摘しておきたい。教科書のようなきれいなフォームで投げる赤星は、ウイニングショットになるような変化球を身につけてほしい。身長175センチ。小柄で打者が威圧感を感じない分、左打者の内角に切れ込むカットボール、右打者の内角に食い込むシュートに磨きをかけてほしい。1年間を投げられるスタミナも必要だろう。

大勢で不安なのは、やはり肩肘にかかる負担だろう。現在は2連投までと酷使を避けて起用されているが、ペナント終盤には3連投も必要になる。「抑え」とはいえ、余裕があるときは「抜いて投げる」といった技術を磨いてほしい。

開幕から1カ月が過ぎ、ちょうど疲れがたまってくる時期。大学野球とは違い、プロは長丁場の戦いになる。体のメンテナンスに気を使い、投手コーチと話し合って長いシーズンを乗り切ってもらいたい。(日刊スポーツ評論家)