<ソフトバンク0-4西武>◇7日◇福岡ヤフードーム

 ああ…あと3人。西武の涌井秀章投手(23)が惜しくもノーヒットノーランを逃した。ソフトバンク7回戦で8回まで許した走者は四球の2人だけだったが、9回に先頭の李■浩内野手(28)に左越え二塁打された。06年6月の中日山本昌以来、史上74人目(85度目)の快挙はならなかったが、1安打完封で4勝目を挙げた。チームは3連勝で、試合のなかったロッテを抜き、4月28日以来の首位に返り咲いた。

 ポーカーフェースが一瞬ゆがんだ。9回無死。106球目のフォークが高めに抜けた。李のバットが失投をとらえる。涌井は目を見開き、「アッ」と口を開いた。鋭い打球が左翼手・佐藤の頭上を襲った。西武ファンの悲鳴と、ソフトバンクファンの歓声が入り交じる中で、ボールがジャンプする佐藤の上を越えていった。

 悔しそうに右手人さし指で目元をぬぐった涌井だが、すぐにいつもの無表情な顔に戻った。余韻の残る球場の真ん中で、誰よりも無関心に次の打者に投げていた。「5、6回くらいに、そういえば打たれてないなって。まあ打たれると思ってたんで。勝ったから別にいいです」とひとごとのように振り返った。

 8回まで2四球無安打。快投を支えたのは直球だ。回を追うごとに、記録への重圧が高まるほどに速くなった。8回には149キロを計測。自己最速の151キロに迫る今季最速だった。直球が走るから変化球が生きる。ボール球を有効に振らせられるから、球数が減る。すべての歯車がかみ合い、記録こそ逃したが今季初完投を完封で飾った。9回を李の二塁打1本に抑え6奪三振。普段は球数の多い涌井がわずか116球で締めた。

 今季はここまで3勝。一方で岸が5勝、帆足と石井一が4勝を挙げていた。納得がいかない投球が続いたうえに、エースであるはずの自分より勝っている投手が3人もいる現状。悔しくないはずがない。復調のきっかけは前回登板(4月30日)の日本ハム戦。「糸井さんにホームランを打たれて、次の高橋信二さんに投げた時。ちょっとひじを下げたらしっくり来た」という。さらに動画サイト「You

 tube」で、沢村賞を獲得した昨季の投球を見て確信した。「夏の楽天戦ですかね。去年より(ひじが)上がってて(今年は)無理して投げてたんだなって」。結果はすぐについてきた。

 試合終了後には、マウンドで佐藤に頭を下げられるひと幕もあった。「別にって感じですけどね。『捕れよ!』って思った?

 まあそれは思いましたけどね」といたずらっぽく笑った。「これだったら、目標の2ケタ完投も200イニングも楽にいける」と言い切るほどの投球に、舌も滑らかだった。それでも「これまでで一番良かったか?

 まだまだできる?」と聞かれると、はっきり否定した。「できるじゃなくて、やらなきゃいけない」。エースは自信を取り戻し、チームは首位に浮上した。涌井にとって、チームにとって、単なる1勝以上に価値のある白星となった。【亀山泰宏】※■は木へんに凡

 [2010年5月8日8時13分

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