楽天岩隈久志投手(29)が誇る制球力の極意が、1枚の写真から明らかになった。エースは沖縄・久米島キャンプ第1クール最終日の3日、ブルペン入り。73球を精密に投げ込んだ。連続写真はもちろん、スポーツ写真では極端に遅い50分の1秒というスローシャッターで撮影しても、頭、両目、両肩のラインが、地面と水平を保ったまま一切ぶれないままだった。唯一無二のコントロールを駆使するメカニズムはどうやって育まれたのか。右腕の思考回路とルーツに迫った。

 体ごと、真っすぐ、岩隈が中腰のミットに向かっていった。「これだけ腕を振れればいい」。ギアを1段上げても淡々と、寸分の狂いなく73度、同じ動作を繰り返した。

 スポーツ写真では極めて遅い、50分の1秒というシャッタースピードで撮影しても顔はぶれずに写っている。連続写真は両目を結ぶライン、両肩を結ぶラインが、最後まで地面と平行を保つ。自分の投球イメージをこう解説した。

 岩隈

 顔を動かさないという意識は特にしていませんよ。ただ、目をつむって投げることはできないし、上体から動いても投げられない。下半身から動かし、マウンドの傾斜を使いながらホームに向かっていく。

 顔がホームベースと正対したまま、両目でミットを見据え投げる。当然、投球とは背骨を中心とした左右非対称の動作だが、バランスは完全に左右対称で、目標を正面から狙っている。制球力の源泉がここにあった。

 18歳、ドラフト5位でプロの門をたたき、生き抜くすべを悟った。近鉄投手陣のレベルの高さを知った青年岩隈は「制球が生きる道」と決意。制球を最優先するフォームを確立していった。「プロに入ったとき、投げ方を知らなかった。高卒だったのがよかったと思いますね」と述懐した。苦労と研究を重ねてつかんだ財産。真っすぐミットを見つめる両目と同じ、真っすぐな意思力のたまものだった。

 岩隈同様、現役時代に投球の極意を追い求めてきた首脳陣はどう見るか。「クマは非常に理想が高い」と評する佐藤投手コーチは「あの体を振って馬力を使えば150キロ出る。『もったいない』とも言えるが、良い悪いじゃない。求めているものが違うということだ」と言った。「指にしっかりかかったボールだ。ひと味もふた味も違う。岩隈は顔が動かない」と評した星野監督はこう言う。

 星野監督

 プロには、教えられない領域がある。私は器用な方で、ステップが違っても肘の高さやリリースを瞬間的に変え調節できた。天賦の才は上にいくほど大切な資質だ。

 監督と岩隈には沢村賞投手という共通項がある。「キープ・レベル」。スローシャッターの1枚は、岩隈が理屈を超えた高みにいる証明でもある。【取材・構成=宮下敬至、古川真弥】

 [2011年2月4日9時0分

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