ソフトバンク摂津正投手(30)が、年間通して最も活躍した先発完投型投手に贈られる沢村賞を初受賞した。29日、都内で選考委員会が開かれ、今季27試合に登板して最多勝(17勝)最優秀投手(勝率7割7分3厘)とパ投手部門で2冠に輝いた摂津の受賞が決定。最優秀中継ぎ投手のタイトル(09、10年)獲得選手では史上初の受賞となった。

 摂津は静かに喜びをかみしめた。福岡ヤフードームでの受賞会見。「正直、選ばれると思ってなかった。投手として最高の賞なのでうれしい。これからの励みになる」。いつものように淡々と語った。

 社会人からドラフト5位で入団。近年のダルビッシュ(レンジャーズ)や楽天田中ら高校時代から注目された投手とは一線を画す、異色の右腕が一気に注目される存在となった。

 プロ初年度から2年連続で70試合以上に登板し、最優秀中継ぎ投手のタイトルを獲得した。先発転向2年目での栄誉に「最初に中継ぎ経験があったから、このような賞をいただけた。ピンチを乗り越える術を学んだ」。経験が生きた例として印象深い試合に7月25日の日本ハム戦(福岡ヤフードーム)を挙げた。2回の無死満塁を切り抜けた場面を「スイッチが入った感覚だった」と振り返った。

 沢村賞の選考基準7つのうち5つを満たした。ただ、完璧主義の背番号50は満足していない。3完投は、歴代受賞者の中で最低数だった「5」を下回った。「今年の目標は完投(の増加)と200イニングだった。その2つを達成できなかったのは悔しい」。次はオールクリアで受賞を目指すという宿題もできた。

 今季は杉内、和田、ホールトンの抜けた先発43勝の穴を埋めるべく奮起した。6、7月とも2勝2敗だったが、8月以降は8勝負けなし。卓越した制球力と精神力の強さを武器に、1年間ローテーションを守り続けた。来年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも、代表の有力候補に挙がっている。

 まさにエースと呼ぶにふさわしい存在となったが「まだまだ」と首を振る。「もっとうまくなる部分がある。今までやってきたことではここまで。これまで以上にいろいろやって、具体的にいろんな方向から練習していきたい」と、さらなる成長を誓った。【大池和幸】

 ◆沢村賞

 不世出の大投手といわれる故沢村栄治氏(巨人)の功績をたたえ、1947年(昭22)に制定された。沢村賞受賞者、または同等の成績を挙げた投手で、現役を退いた者5人を中心とする選考委員会で決定する。当初はセ・リーグ投手を対象にしたが、89年から両リーグに対象が広げられた。