<巨人3-2オリックス>◇25日◇東京ドーム

 巨人軍らしい5500勝だ。1点を追う9回1死二、三塁、亀井善行外野手(30)が2点適時打を放った。交流戦首位のオリックスにサヨナラ勝ちし、創設から積み重ねてきた勝利数が節目の数字に到達した。先発菅野が8回2失点と粘り、9回もロペスの来日初となる送りバントで好機を拡大。最後は苦労人が決めた。全員でフォア・ザ・チームを貫いて、記念の1勝をもぎ取った。

 原監督がネクストバッターズサークルに歩を進めた。1点を追う9回無死一、二塁。助っ人ロペスに寄り添った。通訳を介す前に耳打ちした。新外国人に初めて「バント」と直接指示を出した。ロペスは初球、三塁手に捕球させる絶妙の送りバントを決めた。亀井に舞台を整えた監督は「野球とベースボールの共通言語。バントと言って、何かおかしいかな。本人も準備して、フォア・ザ・チームで戦っている。初球に、見事」と淡々と言った。

 巨人軍を率いて通算10年目になる。5000、そして5500勝目。自身2度目の大きな節目だった。自らを傍らに置いて「さん然と輝く先輩方、球団のおかげです。そして今、しっかりと任されて、戦っている。その中での今日の勝利でした」と、先人が残してくれた足跡に感謝し、光を当てた。

 大切にしている哲学がある。先人から学び、自分の解釈を加えて、肉とする。

 「JFK」の愛称で知られるアメリカの元大統領、ジョン・F・ケネディが「尊敬する日本人は」と問われ、「上杉鷹山」と答えたという。原監督は、書籍でこのやりとりを知った。「アメリカ大統領が、日本の歴史、政治をそこまで研究している。ものすごいこと」と感銘を受けた。鷹山は原監督も尊敬する日本人だった。

 江戸時代、鷹山が治めた米沢藩は財政に苦しんだ。自らを律して犠牲とし、市民に還元する姿勢を貫いた。「なせば成る、なさねば成らぬ何事も

 成らぬは人のなさぬなりけり」との格言が生まれた。自己犠牲の精神は、原監督がチームを率いる根底に、いつも流れている。

 殊勲の亀井が「OBの方々が積み上げてくれた。もっともっと、貢献しなくては」と言う。バントを決めたロペスが「監督が、わざわざネクストまで来てくれた。チームメート全員で、勝利に貢献できたことが大きい」と言う。降板後、ベンチで見つめた菅野が「マウンドを降りてから見る攻撃は、また違う。全員で戦っているんだ、と思いました」と感激する。

 自分を犠牲にして、勝つために一丸となる。苦しんでのサヨナラ勝ちだからこそ再確認できた。原監督の信念が、勝負を通して選手たちにも染み渡り、巨人軍の伝統は厚みを増していく。【宮下敬至】