<ソフトバンク6-4日本ハム>◇10日◇ヤフオクドーム

 ベテランが決めた、泣いた!

 ソフトバンク松中信彦内野手(40)が同点の5回2死一、二塁、代打で日本ハム大谷から決勝の適時二塁打。2年ぶりに上がったお立ち台ではファンの声援に感極まり、涙した。チームは3年ぶり8連勝で、試合のなかった2位オリックスとゲーム差を4・5ゲームに広げ、独走態勢に入りつつある。

 松中はもうこらえられなかった。あれだけ見たかった景色がゆがんでいく。「いやあ、久しぶりなんで、やばいです。打席に立ってたくさんの…」。途切れた言葉の代わりに涙があふれた。お立ち台は2年ぶり。涙を拭いて「どんなときもたくさんの声援をしてくださるファンの皆さんがいるので何とかしよう、それだけでした」と胸の内を吐き出した。

 今季24打席目。最速のコールだった。同点の5回2死一、二塁。前打者になった明石が2ボールの時点で歩かされると予測し、ベンチ裏で準備。細川の代打で打席に向かった。20歳の大谷とは初対決。「初球から何でもいこうと。無心でバットが出ました」。初球カーブはボール。2球目フォークボールは空振り。3球目。再度のカーブは高く浮いた。最速162キロの直球を頭に置く中、3球続いた変化球に二枚腰で完璧に対応。三塁線を破る適時二塁打が生まれた。

 何安打も放ってきた元3冠王の40歳が、20歳の大谷からの1安打で涙した。昨年は交流戦の優勝セレモニーを無断欠席し、2軍行き。9試合出場に終わり、今年も代打。20打数3安打3打点の打率1割5分。安打1本が今までより重く、思い入れも強いからだ。「代打は難しい。レギュラーの時にそういう経験は味わえなかった。野球人として勉強させてもらっています」。2年間出ていない本塁打より、大切なものがある。「なかなかクローザーの150キロは打てません。走者をかえす、四球を選ぶ。そっちに重点を置いています」。

 1打席限定の仕事人が流れをつくり、8連勝。秋山監督はベテランのひと振りにうなずいた。「変化球、変化球で反対方向へ打つ。ああいう打撃ができるといい。1発も魅力だけど走者がいるところでかえすバッティングをしてくれるとな」。指揮官の母ミスエさん(享年85)の命日に同じ熊本県出身で、現役時代に自主トレに連れていった“弟分”が働いた。明日12日楽天戦は年に1度の熊本開催。「熊本まで何とか1軍に残りたい」と願っていた松中が最高のタイミングで里帰りする。【押谷謙爾】