<プロ野球ドラフト会議>◇24日

 スカウトくじ引き作戦が実った。広島は阪神、ヤクルトとの競合の末、1位指名した九州共立大・大瀬良大地投手(4年=長崎日大)の交渉権を獲得。阪神和田豊監督(51)とヤクルト小川淳司監督(56)にはさまれながら、当たりくじを引いたのは田村恵スカウト(37)。昨年2度抽選を外したトラウマを大胆起用で拭い去った。

 ヒーローはスカウトだった。九州共立大・大瀬良は、阪神、ヤクルトとの競合となった。和田監督、小川監督とともに登壇したのは田村スカウト。「彼は投手で、僕は捕手。ミットを持つ左手と決めていた」と、抽選箱に左手を入れた。封を開けるのに戸惑いながら「交渉権確定」の印を確認すると体が震えた。力のこもったガッツポーズで喜びを表現。眼鏡の奥の瞳は潤んでいた。

 「頭が真っ白」と放心状態の田村スカウトは「人生で一番緊張しました。自分が一番見てきたので、当たると信じていた。ガッツポーズはしないと思っていたけど、自然とやっていましたね」。広島が最初の入札で当たりくじを引いたのは99年の河内以来。スカウトが抽選役を務めたのは球団初だが「僕が引かなくてよかった」と笑顔の広島野村謙二郎監督(47)は「これからはこのパターンで」と、奇策を「伝統芸」にすることも提案した。

 5年間の思いが届いた。長崎日大3年の大瀬良と出会った。当時も上位候補に推したが、進学したために4年間の“延長戦”を経て運命の日を迎えた。「クジが当たったことよりも社長と監督が大瀬良で行くと言ってくれたことが、うれしかった」。前夜、野村監督からは「2回外したらつらいぞ」と言われて熟睡できなくなったが、上京前の22日に購入したチームカラーの真っ赤なパンツを身につけて運を呼び寄せた。

 球団にはトラウマがあった。昨年はドラフト前日に東福岡・森の一本釣りを明言。本番直前に1位指名を決めた楽天に“強奪”された。外れ1位もNTT西日本・増田を西武との競合となり獲得できなかった。

 前日のスカウト会議で競合覚悟で大瀬良の指名方針をほぼ固めたが、難航したのは抽選役の選出だった。通算3度クジを外している野村監督は「オレはくじ運がない」と固辞。松田オーナーの発案で抜てきされた田村スカウトは重圧の中、大役を務め上げ、負の歴史に終止符を打った。【鎌田真一郎】

 ◆田村恵(たむら・けい)1976年(昭51)5月22日、福岡・糸田町生まれ。鹿児島商工2年夏に捕手として甲子園出場。黒縁眼鏡の捕手として注目を集める。樟南に校名が変わった3年夏には、主将も務め甲子園準優勝。94年ドラフト6位で広島に入団。プロ通算62試合で打率2割、0本塁打、1打点。02年オフに現役引退後はスコアラーを務め、04年10月からは九州担当スカウトとして今村、松山、安部らの獲得などに尽力。172センチ、74キロ。右投げ右打ち。