WBCの8強が11日(日本時間12日)、決まった。2連覇を目指す侍ジャパンはエース山本由伸投手(27=ドジャース)が、ベネズエラとの準々決勝の先発マウンドに上がる。
負けられない一戦を前に、元オリックスで投手として5年間、山本と同僚だった鈴木優氏が、今年から日刊スポーツ特任記者として「Yu’s Eye」で秘話をリポートする。第1回のテーマは「由伸の素顔」。大舞台に強い男には、純粋な野球愛があった。
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「由伸」「優さん」。オリックスの選手寮・青濤(せいとう)館で3年間、そう呼び合いながらプロ生活をともにした。WBC準々決勝を控え、マイアミ入りした由伸は、野手組とは別の場所で、調整を行った。一戦必勝のマウンドで何度もチームを救ってきた“優勝請負人”。ベネズエラ戦でもやってくれるはずだ。そう思える理由が、由伸にはある。
<1>楽しむ心 オリックス時代、自身2度目の開幕投手を務めた22年、パ・リーグワースト記録だった10年連続の開幕戦黒星をストップした。チームの屈辱的な歴史を背負い、少なからず重圧があった試合でも、8回無失点9奪三振と力投。まるで野球を始めたての少年のように楽しんでいた。「やっぱり野球が心から好きなんですよね。だからすごく楽しいんです」。その純粋さが最大の強み。重圧のかかるマウンドほど楽しんでいる。
<2>野球愛 ドジャース移籍2年目のキャンプ中、ある日の練習後にアリゾナ州の滞在先に招かれる機会があった。中に入ると、由伸はプラスチックバットを持って、幼なじみの先輩マネジャーから投げられた柔らかいボールを、思い切り打ってはしゃいでいた。打者・由伸としてプレーしたのはオリックス時代、セ・リーグとの交流戦のみで、結果は11打数ノーヒット。メジャーで打席に立つ可能性もないが「ホームラン打ってみたいんですよね。もう打席に立つ機会はないですが、バッターも楽しいです」。野球を愛しているから、野球の神様に愛される。
<3>人間性 向上心が尽きず、かつ謙虚な姿勢は今でも変わらない。何より、コミュニケーション能力が抜群に高い。言葉の壁がある異国の地でも愛され、クラブハウスで同僚選手や裏方スタッフらが笑顔で日本語のあいさつをしたり、ちょっかいを出したりする光景を何度も目にする。それは、努力のたまものでもある。週に数回、オンラインで英語の個別レッスンを受けていただけでなく、簡単なスペイン語まで習得しようとしていた。学習ノートは英語版2冊とスペイン語版1冊。見せてもらったことがあるが、英語版にはびっしり文字が書かれていた。「恥ずかしいので見ないでください(笑い)。勉強は本当に苦手なんですよね」と言いながらも、努力の痕跡に改めて、高い順応性と輪に溶け込もうとする協調性を感じた。
WBC米国代表で一時的に現役復帰した元同僚のレジェンド左腕クレイトン・カーショーからは「シンプルで美しい。見習うべき」と、投球フォームを称賛される。他球団の投手からも「スプリットの投げ方を教えてほしい」と聞かれるなど、最高峰のリーグで一目置かれる存在になった。このままいけば日本人初のサイ・ヤング賞を受賞する日も遠くないだろう。その前にWBC2連覇への命運が託される。まずはベネズエラ戦の先発だ。頼むぞ、由伸!
◆鈴木優(すずき・ゆう)1997年(平9)2月5日生まれ、東京都出身。雪谷高から14年ドラフト9位でオリックスに入団。20年7月1日の西武戦で、都立高から直接プロ入りした選手としては史上初の勝利を挙げた。21年に巨人と育成契約を結んだが、シーズンオフに戦力外通告を受け、現役引退。通算成績は1勝3敗1セーブ。23年に米国ロサンゼルスに留学。24年からドジャースの番記者として幅広く活動し、テレビ局のリポーターも務める。現役時代は右投げ右打ち。181センチ、83キロ。

