いよいよ4月16日夜に格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT 武士道」で格闘家デビュー戦を迎えます。言い訳のきかないリングでは真っ向勝負です。正直、サッカーをしていた時はどこかで誰かのせいにしていたかもしれません。パスが悪い、ポジション取りが悪い、もっと走れ…などなど。そして環境のせいにもしていたと思います。グラウンドが硬い、控室がない、勝利給が少ない…などなど。今になるとわかることなのですが、全て事実ではあります。しかし、これを呟くことでどこかで自分という人間の弱さから逃げようとしているんですね。

「ツイッターは便所の落書き」という例えをよく聞きますが、それを呟いているのが人間です。公にそれを載せなくても心で呟いています。僕は今、一切の言い訳を自分から排除しました。これは「自分にうそをつかない」とは少し違う観点なのですが、何げない呟きが「言い訳」となり、気がつけばどこかで誰かのせいにする自分が生まれてしまいます。そうなると、最後の最後でその差が出るのです。「火事場のくそ力」は言い訳なしの待ったなしの状況だから出るわけであり、そこに少しの諦めも言い訳もないはずです。

今回のデビュー戦を僕は人生の岐路だと思っています。「お前に何ができるんだ」。そう言われる中で「これだよ」と証明できる瞬間を作る試されごとです。挑戦者として、徹底的にリングの上で暴れまくろうと思っています。

そんな中、「挑戦すること」について少し思うところがあるので、今回は私の思いをつづらせていただきます。挑戦とはリカバリーできるリスクを背負うことを示す。多くの人はこの世の中は「結果が全て」だと言いますね。しかし、本当にそうなのかどうか、僕なりの答えを出してみたいと思います。

結論から言います。僕の中では「結果は全てではない」です。それは、結果とは今この瞬間を意味するからです。結果が全てだと言う人は、その大会やその瞬間だけにフォーカスをしている。これは決して間違ってはいません。しかし、最初で最後の大会と決めていない限り、その瞬間だけで答えを出すのはそんなに簡単なことではありません。

例えば、オリンピックで金メダルと取りたいというのが目的であれば、それは結果が全てでしょう。しかし、オリンピックを通してという視座を持っている場合は、結果よりもプロセスに意味が出てくると思います。プロセスとは10年後(未来)を意味します。そのプロセスが未来の結果になるわけです。

挑戦者に必要なのは、できるだけ大きいダメージは避けることです。ただし、リカバリーできるリスクは追い続けなければなりません。リスクには2つあります。ひとつは今述べたリカバリーできるリスク。リカバリーできるものは結果よりも体験が大事です。だからこそリカバリーできる失敗は何度でも繰り返していいのです。

もうひとつはリカバリーできないリスク。リカバリーできないリスクは結果が何よりも大事になります。この2つのリスクをバランス良く負える絶妙な感覚の持ち主こそ真の挑戦者になれると僕は思っています。

挑戦者として一番やってはいけないことは、自分のできる範囲でそこそこやることです。毎回スタメンに選ばれているそこそこの選手がやりがちなことですね。成功している感じはある。それは成功していないということを自覚できていないんですね。小さなリスクを繰り返してリカバリー力を身につけることが、挑戦者として必要な能力になります。

もっと言えば1億円の借金は意味がないが、100万円の借金には意味がある。これがリカバリー力を身につけることになります。無難にいってそこそこの評価を勝ち取れる選手は多くいますが、それだけでは本当の意味で開花できていない。自分ができることを、できる範囲ですることは意味がない。できるだけそれに早く気がつくことが成長のチャンスをつかみ取る方法でもあります。

12月31日にRIZINのリングに立つと宣言した僕にとって、このデビュー戦は非常に重要なものになります。周りからの「こいつはどんなもんや」という期待が一気に揺れ動く瞬間です。だからといって結果が全てと思ってしまえば、それは12月31日に繋がりません。僕にとっての結果とはRIZINのリングに立つこと。それ以外は全てプロセスであり、そこに試行錯誤と創意工夫があります。

命をかけてリングに上がるからこそ、プロセスを大事にしたい。それは事前準備という言葉に置き換えることができるでしょう。アスリートとしての貯金などもはや僕にはありません。

ひとつひとつ積み重ねることでしか、今の僕は存在していないのです。

最高にエキサイティングな試合をします。そしてその姿から見ている人にメッセージを伝えたい。

「僕ら人間にとって、日本人にとって本当に大事なものは何ですか」

お金優位の資本主義社会の固定観念を格闘家として鍛えた精神で打破していきます。リングの上の生き様を見てください。

最後に、死ぬ瞬間まで人生の結果は分からないから、やはり「結果が全て」とは言えないと僕は思います。

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結ぶも開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退した。同年12月には初の著書「おっさんJリーガーが年俸120円でも最高に幸福なわけ」(小学館)を出版。オンラインサロン「Team ABIKO」も開設した。175センチ、74キロ。

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「元年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)