いつやったか、テレビ局の人にこんな話を聞いた。

 「長谷川穂積の試合は、女性受けがいい」。

 WBC世界バンタム、スーパーバンタム、フェザー級の3階級を制した元王者。切れ味鋭いサウスポーで、かっこよかった。なので、そのファイティングスタイルのおかげと思ったら、違うらしい。「彼の試合は、あんまり血が流れないからね」。…男にはピンと来ん。とはいえ、どんなジャンルでも女性が動けば、ブームが来るのは世の常です。テレビは視聴率の要因を性別、年齢層に分けて細かくチェックしてる。信ぴょう性は高いと思います。

 女性は流血、凄惨(せいさん)なもの(それが格闘技の本質やと思うが)は嫌うとしましょう。ほな、今のプロボクサーで誰が“女性票”にハマるんか? WBC世界ライトフライ級王者拳四朗はどうでしょう。

 第一印象は強烈やった。トリプル世界戦を3日後に控えた5月17日の予備検診。都内のホテルで彼を取材して、目を疑った。顔つき、髪形、物腰。まあどう見ても、25歳には見えん。「よう高校生に間違われます」「コンビニでお酒買う時は、まず『身分証見せて』と言われます」。Tシャツ、ズボンをビシッとユニクロ製品で決めて、ニコニコ笑ってた。

 翌日の調印式も同じホテル。会見場に入ろうと思ったら「こんにちは」と声がする。ふと横を見たら、再びニコニコ笑う拳四朗。ビックリするほど、戦う人間のオーラがない。「こんな少年をボクシングのリングに上げたらあかん」と思った。ところが、見事に勝ってもた。

 彼の本名は寺地拳四朗。所属する、京都・宇治のBMBジム会長でもある元東洋太平洋ライトヘビー級王者の父永(ひさし)さん(53)が立命大に入る前に通ってた大阪・天王寺予備校近くの店で読んでたんが、週刊少年ジャンプ。お目当ては「北斗の拳」。「秘孔(ひこう)を突いたら、ほんまに体が破裂するんかな…」とほんまにちょっと悩むほどハマッてたとか。その父が「漢字3文字の名前にしたい」と主人公ケンシロウから名付けたんやけど…。名は体を表すどころか、一子相伝の伝承者の風情どころか、男臭さ、武骨さのカケラもない。

 まあ、こんな世界王者は古今東西、ちょっと見当たらんけど、女性は彼を見て、そのうち「かわいい~ハート」とキャッキャッ騒ぎ出すんやいやろか。“ギャップ萌(も)え”てな言葉にもハマる。拳四朗が女性を巻き込み、ボクシングブームの救世主になるのも、あながちない話やないと思うんやが。【加藤裕一】